注目ポイント満載のスカイラインスカイラインの名がこれだけ世間で話題になるのは、一体どれぐらいぶりだろう。けれど、それは決して不思議な話ではない。昨年11月に発表された新型スカイラインと来たら、その顔にインフィニティのマークが輝き、当初のラインナップは全車ハイブリッドで、世界初のステア・バイ・ワイヤ・システムであるダイレクトアダプティブステアリングを搭載するなど、注目すべきポイントが盛り沢山だったのだから。 しかも話はそこで終わらなかった。この春、新たに追加された200GT-tに積まれる直列4気筒2L直噴ターボエンジンは自社開発ではなく、ダイムラーから提供されたものだったのである。 ダイムラー製エンジンでも“スカイラインらしさ”を期待これは日産、ダイムラー、そしてルノーのアライアンスに基づくもの。現状のこのエンジンはドイツで生産されたものだが、実はこの6月よりアラバマ州にある日産のデカード工場にて同エンジンの生産が開始されている。つまり今後は、ダイムラーが設計したアメリカ生産のエンジンが、日本で作られるスカイラインに搭載されることになる。ちなみにアメリカで生産されるメルセデス・ベンツCクラスのエンジンも、この日産工場製となるのだ。 もちろん、まだ日産はV型6気筒、V型8気筒エンジンを持っている。しかし今後は、ディーゼルが完全にルノー主導となっているように、この辺りから上の排気量のガソリンエンジンに於いては、将来的にはダイムラーが設計するユニットの使用範囲が拡大していくのかもしれない。 「クルマの中心部であるエンジンが他社製だなんて」という声は、色々なところで耳にする。私だってそれは解らないわけではないが、一方で世界はすでに変わりつつあるんだろうとも思う。どこのどんなエンジンを積もうと、クルマの完成度が高ければいい。スカイライン以外の何物でもないと思わせるものになっていたならば。 十分に意のままの加速を楽しめるまずはそのエンジンの印象から言えば、ハードとしての完成度は高く、情緒的にも悪くないものに仕上がっていると思う。最高出力211ps/5500rpm、最大トルク350Nm/1250-3500rpmというスペックにも表れているように、狙いはトップエンドのパワーよりも実用域のトルクであるこのエンジン、走り出した瞬間から十分な力を得られ、軽やかに加速できる。ハイブリッドモデルより120kg軽い車重も、そんな印象を後押ししているのだろう。 そのまま回していってもトップエンドまでスムーズさが失われることはないが、かと言って特にドラマが起きるわけではない。低中速域からの勢いで車速は伸びていくが、エンジン特性自体はフラット。エンジンとともにダイムラーから供給される7速ATには、GT-R用と同形状のステアリングコラム固定式のパドルシフトが備わるが、敢えてこれを弾いて高回転域を使おうという衝動に駆られることは無かった。ネガティヴな意味ばかりではなく、変速はクルマ任せでも十分に意のままの加速を楽しめるということだ。 前述の通り、ほぼ同じエンジンがメルセデス・ベンツCクラス、Eクラスなどに積まれているが、それら全体の印象と較べると、スカイライン用はアクセル操作に対するツキが良くなっているように感じられた。しかもその車体は不快な騒音や振動をうまく遮断していて、走りには十分な上質感も演出されていた。但し、アイドリングストップからの再始動時の振動はかなり大きめ。エンジンマウントが相当柔らかいのかもしれない。総じて見れば、今の時代に相応しい洗練された速さがそこにはある。「スカGターボ」的な刺激を期待すると肩透かしを喰うかもしれないけれど……。 ハンドリングにはやや失望もガッカリさせられたのはハンドリングである。走りの土台となるボディはなかなか剛性感が高そうだし、うまくキマった時のコーナリングは速度も姿勢も悪くなさそうなのだが、いかんせん意のままにクルマが動いてくれない。 一番の問題はステアリングの手応えの欠如。切り込んだ時の感触は悪くなくても、気付くとインフォメーションの無いままラインがどんどん膨らんでしまうとか、旋回中に保舵力が不意に軽くなって、掌でグリップ限界が感じられずペースダウンを余儀なくされるなんて具合で、常に掌やお尻ではなく目で見て運転しなければならない。 確かに、試乗した日は結構な雨と霧でペースが上がらず、19インチの偏平ランフラットタイヤが温まらず、たわみもしない状況だったことは確かだ。しかし「意のままになる」クルマとは、こういう悪条件下でこそ怖さを感じることなく、安心して走れるべきだろう。 先に登場した350GTハイブリッドのダイレクトアダプティブステアリングも、やはり操舵感がゲーム機のように乏しくクルマとの対話が難しいが、それは機構的に未成熟なせいだと思っていた。しかし通常のステアリングでもこれなら、つまりこれが開発陣の目指した方向なのだろう。それならそれで納得はするが、私の思う「意のまま」とは解釈が異なると言うしかない。 納得できる仕上がりではあるものの……。快適性はまずまず。19インチのランフラットタイヤの硬さが時折顔を出すし、それをカバーするためかSTANDARDモードでは動きに締まりが無い感もあるから、特にワインディングロードではSPORTモードの方が具合がいい。もう少し、しっとりしなやかな乗り心地を望むなら17インチを選んだ方が良いだろう。 話題となっただけでなくスカイラインは販売も好調。7月18日時点でのハイブリッドを含めた受注台数はトータルで8400台に達したという。デビュー直後ということもあるが、月1千台ペースというのは大したものだ。確かに、従来からのスカイライン党にとっては複雑かもしれないが、サイズもデザインもいわゆるプレミアムブランドの輸入車と並べてヒケをとるものにはなっていないし、内外装のクオリティだって高い。パワートレインだっていずれを選んでも仕上がりは十分に納得できる。 更なる進化を信じているしかし私としては、やはりこのフットワークでは太鼓判を押すわけにはいかない。これがティアナなら、あるいはローレルでも名乗っていたならともかく、走りにこだわってきたスカイラインなのだ。しかも世界を向こうに回して戦おうというなら、こちらとしても仮想敵として設定するのはメルセデス・ベンツCクラスやBMW3シリーズなどとなる。数値的な意味での性能は出ているのかもしれないが、ドライバーズカーとしてはまだそこには届いていない。 それこそ他社製のパワートレインを積んでいるのだ。シャシーしかニッサンの走りへの情熱、技術を表現できる場所は無いのである。「シャシーもメルセデスでいいんじゃない?」なんて誰かに言われてしまう前に開発陣には奮起してほしい。ニッサンのプライドを見せてほしいと強く思う。 ちょっと厳しくなってしまったが、それもスカイラインに対する思い入れ故のこと。正直に言うと、自分がここまでその名に期待を抱いているとはずっと意外だったのだが……。それぐらい、スカイラインとは日本のクルマ好きの心に深く根ざしたクルマなのだろう。 「エンジンが何であれ、やっぱりコレはスカイラインだよね」そんなクルマへと進化していくことを信じている。きっと出来るはずだ。 スカイライン 200GT-t Type SP 主要スペック【 200GT-t Type SP 】 |
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