超本格的なシート合わせに圧倒される?11月の最終週に、スペインにて試乗会があります。参加できませんか? ちなみに国際B級以上の競技ライセンスはお持ちですか? 海外メーカーのモデルは、大抵が日本よりも自国での発表発売が早いので、新型車をいち早く日本でレポートしようと思うと、海外にまで試乗しに出かける必要が出てくる。しかし、今回のように上級の競技ライセンス保持を要求する誘いは異例だ。 詳しく聞いてみると、場所はスペイン南端にあるモンテブランコサーキット。約4.4kmの、レースも行われるが主にF1用のテストコースとして近年に作られたものだ。成田から2回の乗り継ぎで最寄りのセビリア空港に降り立ち、約1時間クルマに乗りサーキットへ。約24時間のドアtoドアの長旅の先に待っていたのは、驚くべきクルマだった。 BMW Z4 GT3。2013年度のニュルブルクリンク24時間レースなどに出場したBMWワークスのレーシングカーが、そのままそこに用意されていた。ちなみに日本では同様の車両が、スーパーGT300クラスに「GSR 初音ミク」号として参戦して強さを示している。 到着したのは現地時刻で19時。ご飯を食べるだけと思いきや、サイズピッタリのレーシングスーツからグローブなど一式を渡され、着替えさせられる。そしてZ4 GT3に案内され、始まったのは明日の走行のためのシート合わせだ。 レースカーは通常のクルマと違い、シートの前後スライドこそあるが、あとは自分の体に合わせてシートクッションの厚みや形状を変更して、体に馴染むように作り込む。そしてシートベルトで、体をシートに強く固定。身動きできないレベルまで締め上げる。 その状態でも、全てのスイッチに手が届き「作りは特別だけど、操作性の良さなど、考え方はBMWの通常モデルと同様だろ!」なんて担当エンジニアやメカニックと話しながら、各スイッチ類の説明、走行無線の確認、そして緊急時の車両脱出訓練を済ませて初日を終えた。 レーシングカーの試乗であることは予想できたが、現役時代を思いだす本格ぶりに圧倒された。 翌朝はBMW Z4 GT3のシートで居眠り?早朝、サーキットに到着すると、すでにメカニックが車両のエンジンを掛けて各部を暖めるなど、最終メンテナンスをしている。 そもそも、なぜBMWがこの手の試乗会をわざわざ開催したのか? その答えは、BMWのスポーツシーンを牽引してきたM3にあった。今まで3シリーズクーペと呼ばれていたモデルは4シリーズにネーミングが変わったので、M3クーペはM4となる。そのM4が2014年に登場する前に、改めてMの凄さ、Mの原点がレーシングの世界にあることを伝えたかったのだという。 言い換えると、Mモデルとは一般車両の性能を上げて高性能にしたのではなく、レーシングカーに一般道の走行に耐えられる装備や性能を持たせたレーシングカーありきのモデル。多くのメーカーが高性能車を出してきているが、それらとは異なり「レース生粋の性能追求が原点」(詳しくは「Mの掟」を読んでほしい)の想いを伝えたくて、我ら各国のメディアをスペインに呼んだそうだ。 昨晩合わせたシートに、体がスポッとハマる。その状態でコースがオープンするまで5分ほど待ったが、やはり…だ。睡魔に襲われ寝そうになった。現役時代もそうだし、レーシングドライバー仲間に聞いても、経験者は多数いる。レーシングカーで寝そうになったことを…。 実はそれほどまでにレースカーのシートは快適だ。体に全てが密着しており、それでいて完全脱力をしても姿勢が一切変わらないほど固定されている。サポート性やホールド性の良さは、快適性にもつながることを痛感する。量産バージョンのMモデルのシートはこうしたレーシングカー的要素も取り入れて仕上げられているわけだが、それは眠くなるシートという訳ではなく、それほどまでにMのシートは快適であったりもする、という証明というわけだ。 約4000万円はお値打ちのレーシングワールド走り出すと、その走りの愉しさと気持ちよさに感激した。 と言うのも、これまたドライバー仲間から「今のGTカーは何周でも安定して走り続けられるくらい運転が楽だよ」と聞いていたが、まさにその通り。速い旋回スピード、重心を下げる為にも低く座り前方が見えないレーシングカー特有の視点、そして音や振動などがダイレクトに体に伝わる感覚に慣れさえすれば、誰でも運転できるほど楽に乗れる。その楽が、愉しみや気持ちよさを得る余裕を生みしている。 参考までに、Z4 GT3の細かなスペックを伝えておこう。3サイズは4387×2010×1210mm。ノーマルのZ4と比べると、全長で約130mm長く、全幅は220mm広く、そして全高は70mm低い。まさにレーシングの基本であるロー&ワイドが突き詰められたフォルム。そこにレース規約での公表値を参照すると、515psを9000回転で発生する4.4LのV8自然吸気エンジンを搭載。価格は1ユーロ=142円換算で約3950万円。レースの世界は金銭感覚が麻痺する世界とも言われている理由が、この車両価格からも解る。 しかし、クルマを間近で見たら、その価格に誰もが納得せざるを得ないはずだ。それは何が凄いのかは解らなくても、見た事の無い作りや、見た事の無いモノなど、全てが特別であることは一目瞭然だからだ。そして、そこから生み出される走りは、一般車しか知らない人からすると異次元だ。 曲がっているのにクルマが傾かない感覚や、体の内蔵などがカーブの外側に偏るほどの旋回力。そもそもで言えば、クルマが地面に強力に吸い付くような感覚。さらに言うと、踏めば踏むほど止まる暴力的なストッピングパワー。よく「レーシングカーは加速が凄いんですよね?」なんて聞かれるが、今のレーシングカーは速くなりすぎた結果、エンジンに吸気制限を施して出力規制(この車両は515ps)を行っており、レーシングカーの凄さはむしろ、曲がる力や首が痛くなるほど止まる性能にこそあるとも言える。その絶対性能の高さが、攻め込んだレーシングスピードの領域でも、ドライバーの意のままに動く特性を提供するというわけだ。 逆に言えば、そのようなスピード領域でも安定と安全と運転のし易さを提供する自信がBMWにはあるので、ライセンス保持者とは言え、久々にレーシングカーに乗るメンバーを制限無しで自由に走らせたのだろう。 緻密な電子制御はBMWの量産モデルにもちなみに、玄人的な目線で最も感動したのは電子制御の緻密さ。ブレーキを強く踏んでもタイヤがロックしないABS制御。アクセルを踏んでリアタイヤが空転するのを防ぐトラクションコントロール。そして車両が不安定な姿勢になる事を防ぐ横滑り防止制御。こうした機能はすべて一般車にも採用済みのものだが、BMW車の制御のあの緻密さと、スポーティドライブ時にも邪魔に感じず違和感無く使える原点はこうしたレーシングシーンにあったのだ! と実感させられた。 たとえば…ハンドルに備わる数多くのスイッチのなかで、特等席にトラクションコントロールと横滑り防止装置の5段階調整ダイヤルスイッチがある。なぜ特等席なのか? それは、そのスイッチ使用頻度が最も高く、さらには重要だからだ。その意味は15分も走れば実感することになる。 昔であればこの手の制御は効かさないように走るのが常だ。しかし、このZ4 GT3では、積極的に使った方が速いし走り易い。具体的には、制御が無いクルマではハンドルを戻しながらアクセルを踏むとか、カーブの立ち上がりでは駆動輪がスリップしないようにクルマの動きやグリップと相談しながらアクセルを踏み込む。 しかしそんな必要は、今は無い。無謀に踏むのはもちろん無しだが、ハンドルが戻り出してアクセルに足を乗せて踏み込んでよいタイミングなら、迷わずガバッと全開にしたほうが速いコーナーがたくさんあった。踏んでもエンジン音がバラバラといいながら出力制御され、安定して効率よく加速してくれる。そこに違和感は無く、邪魔な印象も無く、それでいて速い。そしてこうした制御技術は、BMWの量産モデルにフィードバックされていくのだ。 恐らく現役レーシングドライバーは、ある高速コーナーではトラクションをレベル3に、低速コーナーはレベル4などと、コーナーごとに使い分けるのだろう。全ての制御がそのような、速さと扱い易さと安定を備えており、久々に乗ってもまずまずのタイムが出てしまうほど扱い易い。結果として、BMWの原点である走りの愉しさの極地を体験でき、そこに身を任せて試乗していたので、降りたら生まれたての子鹿のようにまともに立てないほど体が"追い込まれて"いたが、その疲労すら心地よかった! |
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