ジャガー技術陣とのコラボレーション新型レンジローバースポーツはマニアックなクルマである。特に5リッターV8モデルを積んだオートバイオグラフィダイナミックはそうだ。SUVを選ぶ上においてこれほど心踊らされるクルマを他に知らない。スタータースイッチを押した瞬間、それに反応するブリッピングからクルマとともにドライバーは覚醒する。 結論から言うと、こいつはSUVの概念から逸脱する。7月、オックスフォード近郊の空港で最高速テスト&そこからのブレーキングを体験したときからそれを感じていた。510psのパフォーマンスを存分に発揮できるだけのシャシーフレームと制動力を兼ね備えている。スポーツカーならまだしも、背の高いSUVにおいてステアリングセンターを合わせた状態での急制動はかなり驚異的だ。 こうした背景にはジャガー技術陣とのコラボレーションがある。1922年のスタートからレースマインドを持つこのブランドはそれを熟知している。 例えば、そのひとつにフルアルミフレームというのがある。2003年型ジャガーXJ(X350)から取り入れた技術だ。新型レンジローバースポーツはその第四世代となる進化版を備えている。先にリリースされたレンジローバーにつぐ、業界2台目のフルアルミフレームSUVだ。これが、ご存知のようにパワートレーンの長所を引き出す。極端な軽量化がパワーウェイトレシオを上げ、高剛性がフリクションとエネルギー損失を抑える。まさに走行中の剛性感はスポーツカーレベル。なにからなにまでいいこと尽くめだ。 イヴォークにも、レンジローバーにも似ているスタイリングは兄レンジローバーに似ている部分もあるし、末っ子のイヴォークともイメージを共有する。ワールドプレミアした3月のニューヨークモーターショーで、チーフクリエイティブオフィサーのジェリーマクガバン氏にそこを訊ねると、この3モデルのドローイングはほぼ同時に進行していたと答えてくれた。つまり、発表のタイミングこそずれてはいるものの、開発は平行して行われていたようだ。 そこで個人的に興味を抱いたのは次期ディスカバリー。これまでレンジスポーツとフレームを共有していたことを鑑みると、新型はアルミ化の可能性は高い。ただ、生粋のランドローバーブランドの価格設定でアルミフレーム分の採算が取れるかは少々心配ではあるが……。 それはともかく、フロントは兄風、リアは弟風な出で立ちでこいつは誕生した。インテリアもそうで、うまい具合に両者のテイストが生きている。例えば、従来から50%近くスイッチ類を減らしたインパネまわりのモダンデザインはレンジを思い出させるが、ドライビングポジションはイヴォークに近い。彼らの専門用語で言うなら、そこは"コマンドポジション"ではなく、"スポーツコマンド"となるそうだ。 ただ高級感はイヴォークよりもレンジローバーに近いことを明言しておこう。レザーやウッドのしつらえは上質な物を知る世界中のセレブリティを納得させられるに違いない。特にトップエンドに立つ1260万円のオートバイオグラフィダイナミックはそうだろう。冒頭に表現したスポーティな走りともどもクオリティは高い。ただ、エントリーモデルのSEも十分すぎる仕上がりを持つ。その意味では798万円のこいつは費用対効果が高いと言えそうだ。 オンリーワンのオフローダー走りのポイントは、やはりSUVとは思えない運動性能だろう。5リッターV8の走りがあまりにも強烈なためそちらにばかり目を奪われてしまうが、3リッターV6もかなりいい。自社製のV8から2本のシリンダーを削いだモジュラーユニットの素性はスポーティだ。 そして今回はそれにZF製8速ATが組み合わされた。FF用は9速もあるが、FRベースは8速となる。こいつの利点は燃費を稼ぐことと二酸化炭素排出量の低減だ。その意味でこのクラスのSUVを買うハードルは下がったと思う。2トン越えのボディを走らせれば燃費に期待できないのは、どこのメーカーも同じ。それが少しでも改善されれば御の字である。ちなみに、時速80キロ時にギアを8速に入れておけば、エンジンの回転数は1200回転程度ですむ。 ただ、3リッターV6を搭載したSEやHSEを気持ちよく走らそうとするなら、シフトをSモードにするべきだし、パドルシフトがあればそれを使って走った方がいい。5リッターモデルに通じるスポーティな走りが呼び起こされる。足回りの動きはさすがで、ロールを抑えながら高速でコーナーを駆ける。ステアリングに対するクイックなレスポンスは絶妙だ。それにエアサスの動きが不自然でないのも好印象。昨今、いろいろなメーカーのエアサスに乗るが、英国車のそれはセッティングが秀逸である。 といった感じの新型レンジスポーツだが、今回の試乗会ではディープな走りができなかったのは事実。英国での試乗会のようにクローズドエリアで大胆な走りを多くの人に体験してもらえたらこの実力をリアルに知っていただけるであろう。ただ、そこだけがこいつのすべてではないことも忘れてはいけない。このクルマが覚醒するフィールドはもうひとつある。そう、オフロードコース。そこまでのパフォーマンスを含めれば、ライバルは存在しない。こいつはオンリーワンのオフローダーである。 |
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