「熟慮の末」の前輪駆動モデルBMW2シリーズ アクティブ・ツアラーのプレス資料は次の文章から始まっている。 「BMWは、熟慮の末、2シリーズ アクティブ・ツアラーにBMWとしては初めての前輪駆動を採用した」 元のドイツ語を知らないのだけれども、この「熟慮の末」という言葉にBMWのとても正直な想いが込められているような気がして、文を追う眼がそこで停まった。 よく知られているように、MINIを別にすれば今までBMWは後輪駆動のクルマしか造ってこなかった。前輪駆動と後輪駆動では、それぞれにメリットとデメリットがあって、BMWは後輪駆動がベストと考え、ずっとそうしてきた。 後輪駆動のメリットは、前輪はタイヤの向きを変えて舵取りし、後輪はエンジンパワーを路面に伝えることにと役割分担できることと、前後輪の重量配分を50対50のバランスに保ちやすくできる点のふたつに集約できる。 前輪駆動のデメリットとメリットちなみに一方の前輪駆動では、前輪ですべての働きを賄わなければならない。その感覚は、スポーティとか、洗練とか、繊細といったものとは正反対のものだ。現在の前輪駆動車はかなり改善が進んではいるが、構造的にゼロに収めることは不可能だ。 その代り、メリットもある。後輪を駆動するためのプロペラシャフトが不要なのでその分の重量が不要となり、また同時に車内にシャフトの出っ張りがなくなって空間が広くなる。軽くなった分は燃費と動力性能の向上に確実に寄与する。だから、コストが限られ、効率を優先されるこんにちのコンパクトカーのほとんどすべてが前輪駆動を採用している。 「BMWは、ダイナミックかつ繊細な操縦フィーリングを重要と考えています。その考えは変わりません」(2シリーズ アクティブ・ツアラーのドライビングダイナミクス・プロジェクト・マネージャー、クリスチャン・シャイノイト氏) シャイノイト氏は、今後もBMWは3シリーズ以上のクルマには後輪駆動を採用し続けていくと付け加えていた。では、そこまで固執している後輪駆動ではなく、対照的な前輪駆動を2シリーズ アクティブ・ツアラーに採用する理由は何か? ファミリーやアクティブなユーザーのために「ボディ寸法はコンパクトに収めながら、車内を広くすることができることです。これまでBMWが造ってきたことのないカテゴリーなので、前輪駆動を採用しました」 オーストリアのインスブルック空港に隣接する会場に並べられた2シリーズ アクティブ・ツアラーはその言葉通りに、コンパクトで背が高かった。 「スポーツやアウトドア活動に熱心で、そのために道具や仲間をたくさん乗せる機会の多い人や、小さな子供のいるカップルなどが具体的なユーザーのイメージです」(パワートレイン・プロジェクト・マネージャーのローランド・ヴェルツミューラー氏) 運転席に座ってシートとハンドルを調整して、自分の頭と天井の間に左右の拳を重ねて入れてみてもまだ空間が余っていた。ミニバンに乗った時に感じる、無駄な頭上空間の拡がりだ。 変わらぬクオリティと多彩なアメニティしかし、眼の前のメーターパネルや操作スイッチ類などの造形と配置、シートそのもののクオリティなどはいつものBMWそのもの。これはたしかに“新しいカテゴリーのBMW”だ。リアシートに移ってみると、着座位置は運転席よりもさらに高く設定されているから、視界が開けて前がよく見える。 前席も後席も背もたれを立て気味にして乗員を座らせれば、その分、「前に詰める」ことになり前後方向の空間を稼ぎつつ、ボディ寸法はコンパクトに収めることができる。実際のボディ全長は4342mmに仕上がった。シャイノイト氏が語っていた狙い通りのパッケージングに仕上がっている。 リアシートの背もたれが40:20:40に前に倒れてフルフラットになるのはもちろんのこと、助手席の背もたれまで倒すことが可能で、その場合は最大2.4mもの長さのものを積むことができる。収納のための各種ポケットなどの工夫や、新型メルセデス・ベンツCクラスやフォード・エコスポーツなどに見られるように最近流行の兆しを見せているジェスチャー操作によるオートマチックテールゲートなど、便利な装備がたくさん装備されている。 2L 4気筒ツインターボを積む試乗した225iというグレードはトップモデルで、新開発の2L 4気筒ツインターボエンジンが搭載されていた。すでに、MINIクーパーSに採用されている横置き前輪駆動用の4気筒だ。最高出力231psで、0-100km/h加速6.8秒、最高速度235km/h。 組み合されるトランスミッションは8速ステップトロニック(AT)。アイドリングストップ機構付きで、コースティング機能も付いている。コースティングとは一定速度で巡航中にクルマが判断してエンジンとトランスミッションを切り離し、燃費を稼ぐものだ。 エンジンを掛けて走り出すと、前輪駆動であることはたしかに体感できた。加速するためにアクセルペダルを踏み込んでいくと、タイヤが駆動されていく様子がハンドルに伝わってくるからだ。ただし、それはあくまでも微細なもので、気付かない人もいるくらいだ。 快適な乗り心地、BMWらしいシャープなエンジン次に印象的なのは乗り心地がソフトでマイルドなところだ。これならば日常的な使い途やフィールドからの帰り道に疲れないで済むだろう。この点も開発陣の狙い通りだ。 エンジンがスムーズでシャープに吹き上がる様子はBMWそのものだ。パドルやシフトレバーでマニュアルシフトして低いギアで踏み込んでいくと6500rpmまで一気に吹き上がるのが気持ちいい。BMWを運転している実感が高まってくる。 インスブルック近郊の山々は急峻なコーナーが連続していたが、4気筒のパワーと8速ATをマニュアルシフトしながら、BMWらしくスポーティに駆けぬける歓びを感じることができた。 ライバルはどんなモデル?日本でライバルとなるのはメルセデス・ベンツ Bクラスやプジョー 2008、ルノーキャプチャーなどになるのだろうが、走りっぷりでは2シリーズ アクティブ・ツアラーが一枚上手になるだろう。パワートレインの優秀さと初めてながら前輪駆動をハイレベルに躾けてあるのはMINIの経験が大いに生かされているからに違いない。 2シリーズ アクティブ・ツアラーは開発陣の狙い通りに仕上がっていたことに間違いないが、気になるのは価格だ。高価過ぎてしまっては、ユーザーは限られる。ただでさえアウトドアスポーツなどは出費が嵩むし、子供の小さなカップルで高収入を得ている人は多くないからクルマに割ける出費は限られてくる。 よくできたクルマであることは間違いないけれども、ニッチなクルマであることも確かで、それはまたユーザーも自ずと限られてくることが半ばあらかじめ宿命付けられている。と考えれば、ニッチにニッチを割り込ませた、たとえばロングボディ版などの登場を予想するのも容易なことで、いつ買えばいいのかわからなくなってくる。造る方はタイヘンだけれども、買う方は選択肢が増え、いろいろ選べて楽しい時代になった。2シリーズ アクティブ・ツアラーはそうした時代に対するBMWの回答のひとつだ。 BMW2シリーズ アクティブ・ツアラー 主要スペック【 225i アクティブ・ツアラー 】 |
GMT+9, 2025-4-30 16:14 , Processed in 0.123335 second(s), 17 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .