クーペに勝るキャビンと荷室の広さ、内装もアップデートこのところしばしば耳にする「シューティングブレーク」とは1960年代に英国で見られたクルマの形状で、主に狩猟用にデザインされたスポーティなワゴンを指す単語だった。シューティングは「狩猟」で問題ないとして、「ブレーク」とはワゴンの垂直に立っているリアエンドが暴走馬を押し止める板のようだったのでその名が付いたのである。 「シューティングブレーク」の形状はハッチバックワゴンでありながら2ドアで、「リライアント シミター GTE」や「ボルボ 1800ES」などがその典型だが、日常性に乏しくやがては廃れてしまった。しかしスタイリッシュな佇まいはデザイナーの憧れで、1985年にはホンダが三代目「アコード」に「エアロデッキ」と名付けた2ドアハッチバックワゴンを、近年ではフェラーリが2011年に「FF」を発表している。またメルセデス・ベンツも「CLA」と「CLS」にシューティングブレークをラインアップしているが、こちらは実用性を重視してドアは4枚だ。 2017年から日本でも発売されているフォルクスワーゲンのトップモデル「アルテオン」は本国でのフェイスリフトを機に、流行の兆しを見せるシューティングブレークをラインアップに加えてきた。ルーフ中央部分からリアエンドに至るなだらかなラインはエレガントでスポーティな印象が感じられる。一方サイドウィンドの後端、それに続くリアウインドウは極端な傾斜をもたず、メルセデス・ベンツのシューティングブレークのアグレッシブなデザインとは対照的である。 VWグループ・デザイナーのクラウス・ビショップはデザインと実用性や居住性の両立を目指しており,ヘッドルームはスタンダードの5ドアクーペよりもフロントで+11mm、リアでは+48mmと反対に余裕をもたせている。またトランクルームも565Lから最大で1632Lとクーペ(563~1557L)より当然広い。 インテリアもアップデートされており、マルチファンクションステアリングホイールや、繊細なエアアウトレットのデザインが新しく、同時にプレミアムに相応しい感触の良い高品質レザー、アルミ、ソフトプラスチックに囲まれている。サウンドシステムはオプションでハーマン・カードンも選択可能、さらにインテリア照明は30種類の調色が可能だ。 ドイツではクーペの約11万円高、とくにリアエンドが魅力的テストルートはVW本社に近いブラウンシュヴァイク空港を起点にアウトバーンを経由、そしてハルツ山地へ向かう。ここはブロッケン現象で有名な標高1142mのブロッケン山があり、周辺はかなり手強いワインディングロードが続く。試乗したのは現行のVW車に広く採用されている4気筒2L TFSI直噴ターボ(EA888)搭載グレードで、最高出力は280ps、最大トルク350Nmを発生、7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)と組み合わされ250km/hでリミッターが介入する。0-100km/h加速は未発表だが旧モデル(4ドアクーペ)から推測するにおそらく5.7秒前後だろう。 アルテオン シューティングブレークアウトバーンへの入り口から十分なパワーで流れに乗ると同時に安定した姿勢で左車線へ、200km/hプラスでのクルージングに入る。テスト車は20インチのスポーツタイヤを装着していたが、長いホイールベースも幸いして乗り心地は低中速域から十分にソフトで、アッパークラスに相応しく快適であった。10kmほど走って標高が上がってくるとやがて小雨が降り出したが、4モーションのおかげで速度を緩めることなく進み、ナビに従って出口へ向かう。ここからはコーナーが連続する峠道が続くが、全長4.87mのシューティングブレークは安定した姿勢でターンインとターンアウトを繰り返し登坂して行く。先ほどアウトバーンで見せた快適性と、この峠道でのスポーツ性はオプションのアダプティブ・シャーシ「DCC(アダプティブシャシーコントロール)」のお陰だと確信する。 帰路のアウトバーンは通勤時間帯に入り込んだが、新たに統合されたドライバーアシストシステム「IQ.ドライブ」の機能のひとつとなったカメラ・レーダー・地図データをベースにしたトラベルアシストでレベル2の半自動運転を体験する。特に重宝したのは工事区間で頻繁に変わる速度制限を感知しての自動制動と、狭くなった車線の中央をトレースするLKA(レーンキープアシスト)だった。おかげで開口部が87×1000mmもあるオプションの電動パノラマグラスルーフでリラックスした開放的なドライブを楽しむことができた。 日本での価格や輸入時期はこの時点では発表されていないが、2.0L 280psを発生するTFSIエンジンと4モーション(4WD)の組み合わせが導入される予定だそうだ。ドイツではスタンダードの5ドアクーペより863ユーロ(約11万円)ほど高いだけである。 アルテオン シューティングブレークはこれまでやや影の薄かったアルテオンの個性的なバリエーションとなるだろう。エレガントでスポーティなエクステリアデザイン、特に斜め後方から人を振り返させるリアエンドは魅力的である。 レポート:Alex Ostern/Kimura Office ※取材記者が独自に入手した非公式の情報に基づいている場合があります。 |
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