高性能版ゴルフの投入を急ぐ背景には販売台数の落ち込みも半世紀近くドイツ、いや欧州そして世界市場でベストセリングカーのタイトルを持ち続けている「フォルクスワーゲン ゴルフ」にちょっとした異変が起きている。 2020年の販売台数を見ればドイツでは13万3900台、欧州では31万2000台でベストセリングカーであることは間違いないのだが、絶対的な販売台数が落ち込んでいるのだ。もちろんこれはコロナ感染拡大によるロックダウンでディーラーの販売活動が停止したことが大きな要因だが、それに加えて考えられるのはSUVへのシフトだ。例えばゴルフベースの「T-ROC」は同じ期間に4万5699台を販売しており、もしこの台数をゴルフのそれに加えれば、昨年とほぼ同じ販売台数になるのだ。 もう一つ考えられるのは電気自動車へのシフトだ。昨年の夏から販売を開始した同社のホープ「ID.3」だが、充電網や航続距離に納得できるユーザーの場合、どちらを購入するか決めかねている可能性も大いにある。昨年発表されたドイツ自動車専門誌アウト・モーター・ウント・シュポルトのゴルフとID.3の購入動向調査では、後者を選択するユーザーが増加していくのが読み取れた。 こうした傾向から、フォルクスワーゲンはゴルフのバリエーションの追加ペースを早め、ラインアップの充実に努めているようだ。特にスポーツモデルについては2020年の夏に「GTI」、暮れには2021年モデルの「GTI クラブスポーツ(CS)」が発表され、試乗会が本社のあるヴォルフスブルクで開催された。 クラブスポーツに搭載されるエンジンはGTIと同じくEA888 evo4の開発コードをもった2.0L 4気筒直噴ターボで、最高出力はGTIの245psから300PSへ、最大トルクは370Nmから400Nmへそれぞれ増加している。駆動力は7速DSG(ツィンクラッチ・オートマチック)によって前輪に伝達される。ダイナミック性能は0-100km・hが5.6秒、最高速度は250km/hでリミッター制御される。 一方、性能アップに対応するために新たにセッティングされたシャシーは15mmローダウンされ、サスペンションジオメトリーは一層シャープなセッティングへと変化している。さらに可変ダンパーとフロントデフロックシステムはネットワーク化され、ドライビングダイナミクスを司るメインコンピューターによって状況に応じて最適なセッティングが瞬時に計算、コントロールされる。 エコ、コンフォート、スポーツ、インディビジュアルのドライビングモードには新たにスペシャルが加わった。これはニュルブルクリンクでのスポーツ走行に合わせてセットされる。クラブスポーツのラップタイムはスタンダードのGTIよりも13秒速いと発表されている。 クラブスポーツはGTIと異なるエクスクルーシブな外装デザインが与えられている。まず左右のヘッドライトを結ぶ赤いアクセントラインに並行してLEDライトが組み合わされ、グリル下端左右には一対のウィングレットが埋め込まれ、フロントスポイラーと共にダウンフォースを生み出している。ルーフ後端のリアスポイラーは大型化され、リアアクスルの接地性を高めている。またプラス55psのパワーの象徴ともいえるエグゾーストパイプは楕円形のマフラーカッターが採用されている。ただし、不思議なことに「クラブスポーツ」を示すエンブレムやロゴはどこにも見当たらない。 インテリアは基本的にはGTIと同じだが、赤いアクセントラインが入ったアルカンターラ張りのスポーツシートと、それに見合ったインテリアトリムがスポーツムードを高めている。操作系も基本はGTIと共通で、ドライバー正面に8.25インチ、ダッシュボード中央には10インチ(オプション)のタッチパネルがレイアウトされている。待ち受け画面はGTIと同じスポーティなデザインだ。 日本でもノーマルGTIより人気が出る可能性は十分にあるスターターボタンを押してスロットルペダルを踏み込むと、後方からダッシュボードがわずかに共鳴するほどの、意外なほど大きなエグゾーストサウンドが響き渡る。コンソールの小さなセレクトレバーをDポジションに送り、ドライブモードはコンフォートを選択してスタートする。このモードではスタンダードなゴルフと変わらない振る舞いでクルーズすることが可能だ。 ただしスポーツモードに切り替えると、回転をわずか2000rpm程度に上げただけでパワーが炸裂、レブリミット5000rpmまでそのパワーを持続させる。前輪に300psと400Nmと聞けばアンダーステアが気になるところだが、ほぼニュートラルを保ったままでハイスピードコーナリングを楽しむことができる。タイトコーナーでは電子制御のデフロックが働きトラクションを確保するのがわかる。 スポーツモードにおけるプログレッシブステアリングもシャープに可変し、特にセンターからの切り込みに鋭く反応、繊細なライントレースをアシストするため、サーキットでのクラブスポーツにも十分に耐えるスポーツパフォマンスを感じた。一方7速DSGはスムースでギア比にも問題はないが、マニアルモードでもエンジン保護のためかレブリミットの手前でシフトアップしてしまうのがちょっと残念だった。 実用性も十分に残されたGTIクラブスポーツはノーマルGTIには飽きたらないスポーツドライバーにはお勧めのバリエーションだ。ドイツでのベース価格は4万225ユーロとスタンダードGTIよりも2625ユーロ(約34万円)高いだけゆえに、日本でもクラブスポーツの方に人気が出る可能性は十分にある。 この試乗会を終えた翌週に、フォルクスワーゲンからゴルフの高性能シリーズの頂点となる「ゴルフR」の試乗会の招待が届いた。普通ならば、およそ1年程度のインターバル、いやモデル末期にカンフル剤として登場するモデルである。ドイツで内燃機関を搭載する車が販売禁止になるまであと10年を切った。フォルクスワーゲンは難しい判断を迫られているに違いない。 レポート:Alex Ostern/Kimura Office ※取材記者が独自に入手した非公式の情報に基づいている場合があります。 |
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