電気自動車におけるスポーツカーの頂点を狙っている2019年9月4日、欧州標準時間15時。ベルリン市ノイハーデンベルグにポルシェ「タイカン」が姿を現した。実はほぼ同時にカナダのナイアガラ、そして中国の海南島でも同じくプレミアイベントが行われていた。なぜこの3箇所が選ばれたのか? ベルリン郊外のノイハーデンベルグには240ヘクタール、4万8000世帯をカバーできる欧州最大の太陽光発電所があり、ナイアガラは水力発電、海南島は風力発電で知られているからだ。 「911」がスポーツカーの代名詞となっているように、ポルシェはタイカンも電気自動車というカテゴリーでスポーツカーとして頂点を極めたいと思っている。4ドアスポーツサルーンではあるが、パフォーマンスはポルシェのDNAを継承し、同時にコネクティビティや日常性は少しも犠牲にはなっていないと自認している。 社長のオリビエ・ブルーメは「ポルシェ車は全て独自の個性的なカルチャー、そして伝説が築き上げた神秘に満ちている」と説明する。つまりポルシェには魂があるというのだ。さらにタイカンはポルシェにとって電気自動車時代の幕開けという重要な任務を持っていると言う。 ポルシェの基本的な商品戦略である「スポーティ」、「イノベーティブ」、「エモーショナル」というキーファクターは今後も変わらない。ポルシェは2022年までに60億ユーロ(約7100億円)をエレクトロモビリティ(自動車の電化)に投資する。この結果、2025年にはポルシェ全製品の内、2台に1台が何らかの形でパワートレーンに電気モーターが組み込まれるはずだ。 ポルシェ伝統の5連メーターはフルデジタル化さて、タイカンの実物に迫ってみよう。アウディ「eトロン GT」と共通の「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」をベースにした4シータークーペ。サイズは全長4963mm、全幅1966mm、全高1378mmとほぼパナメーラに近い。またトランク容量はリアが366L、フロントは81Lの小さなスペースが残されている。 デザインは2015年のフランクフルトショーに登場した「ミッションe」とほぼそのままである。つまりシルエットはパナメーラ、特徴的なフロントデザインはもう4年前のもので、普通ならばフェイスリフトが行われるほど時間が経っている、そのためあまり新鮮味はない。空力特性はCd値0.22でポルシェファミリーの中では優秀。車両重量(DIN空車重量)は容量93.4kWh、650kgの電池ユニットを含んだ状態で、ターボSが2295kg、ターボが2305kgである。 インテリアは、それまでのポルシェ伝統であった5連メーターが幅16.8インチのフルデジタルドライビングインフォメーションスクリーンに代わり、ダッシュボード中央、そしてセンターコンソールには様々な機能をコントロールするための2面のタッチスクリーンがレイアウトされている。また面白いのは助手席用のタッチスクリーンもオプションで設定されている。ただしドライブロジックはアンタッチャブルである。 注目すべきはインテリア素材に本物のレザーを使わないオプションが設定されていることで、ハイエンドラグジュアリーカーの新しい方向性を示している。ただし本当にリアルレザー仕様を放棄するオーナーがいるかは怪しい。 EVでは珍しいトランスミッションを搭載タイカンには「ターボ」と「ターボ S」の2種類のバリエーションが用意される。共にベース出力は625psだが、オーバーブースト(ローンチコントロール)ではターボが最大出力680ps、最大トルク850Nm、ターボ Sは最大出力761ps、最大トルク1050Nmを発生する。 両モデル共に2基の電気モーターを搭載する4WDで、リアにはハイとローギアの2速トランスミッションを持つ。リアの1速は理論的には130Km/hまで届くが、実際は85km/hでシフトアップする。セカンドギアは高速付近でエネルギーの節約をする。このギアはポルシェとZF の共同開発で、重さは70kgもある。なぜ2速かと言えば、確かに電気モーターは0回転から高トルクを発しする。しかし1万6000回転も回る電気モーターにローギアを組み合わせればスタート直後の加速力がさらに向上するのと、2速のギア比を高めることで電費も向上するからだ。 その結果0-100km/hはターボが3.2秒、ターボ Sはなんと2.8秒で到達する。一方、最高速度は共に260km/hでリミッターが働く。「600ps以上で300km/h以下?」と 落胆する人もいるかも知れないが、ポルシェはこの速度が実質的な巡行最高速度で、航続距離もこの速度では極端に縮まらないと強調する。 またドライブモードは「レンジ」、「ノーマル」、「スポーツ」、「スポーツ プラス」となっており、ステアリングコラムにあるロータリースイッチで選択する。またBEVで必須の20km/hまでの人工警告音(AVAS)は当然のことながら、オプションで人工モーターサウンドが用意されている。残念ながらこの日には聞けなかったが、担当者によれば「今さらV8エンジンはありません。また歯医者の“キーン”という電気モーターの音もNGです。パワートレーンから、相応のサウンドは作り出しています」と説明があった。 この発表会が行われた週末、ポルシェのテストドライバーのラルス・ケルンがドライブするタイカンは、ニュルブルクリンク北コースで7分42秒という、4ドアEVスポーツカーとしては最速のラップタイムを記録した。 直流充電では100km走行可能な充電がわずか5分タイカンのEパワートレーンは制動力の90%を回生ブレーキで賄ってしまう。要するにドライブペダルだけで日常の運転をこなすことができるわけだが、回生作動とメカニカル・ブレーキの協調が巧みに行われるため、不自然さは感じられないとテストドライバーは言う。回生エネルギーは最大で60kW、それに伴う減速Gは最大で0.39Gとなる。 車載電気アーキテクチャーは800Vで、一般の電気自動車の2倍以上の電圧である。この結果、タイカンは800Vの急速充電では100kmの航続距離を得るのに僅か5分で済む。またゼロから80%に充電するまでは22分30秒かかる。もちろんそれには270kWの充電設備が必要だ。社長のオリビエ・ブルーメは「もちろん我々も充電インフラを増やして行くが、国が電気自動車の普及を推進している以上、充電設備拡充への援助はして欲しい」と本音ものぞかせていた。 もちろん家庭でも11kWまでの交流充電ができるが、一晩は掛かるだろう。セルはLGケミカル製のパウチタイプで、12個のセルからなるモジュールを33個組み合わせた合計396個のセルからなる電池は、クラッシュ保護のフレームに囲まれた状態で650kgあり、WLTPによる航続距離はターボが450km、ターボSは412kmと発表されている。 サスペンションは、フロントにマクファーソンストラット、リアはマルチリンクだが、ほとんどがアルミ製だ。また3チャンバーの可変エアサスペンションは、スタンダード状態の車高から22mm高く、また20mm低く設定可能である。一方4WSはターボ Sには標準で、最小回転半径は未装着のターボよりも60cm小さい、5.3mになる。 インフラ問題は解決していないが購入層には影響なし?ところで、この日タイカンとはトルコ語で「元気の良い子馬」という意味であることが発表された。しかし タイカンの価格は子馬どころか駿馬級でドイツではターボが15万2000ユーロ(約1800万円)、ターボ Sは 18万6000ユーロ(約2200万円:いずれも19%の付加価値税込)と 発表されている。発売、納車時期はアメリカが今年の暮れ、ドイツおよびヨーロッパは来年の3月くらいになる。 ポルシェの発表によればこれまで2500ユーロ(約30万円)の予約金を払ったポテンシャルユーザーは3万人だ。一方、911は昨年、およそ3万5000販売された。この数字から、ポルシェ首脳陣はタイカンがポルシェ顧客の心を掴んだとみている。 しかし、急速充電器などの充電問題、電池、そしてドイツ国内の発電環境などに関する問題は置き去りにされたままだ。充電だって、もし家庭のコンセントからだったら10時間以上かかる。まあ、ネガを言ってもキリがない・・。 多分、その3万5000台の購入者はお金持ちだろうし、一戸建てを持っているか充電設備のある住宅に住んでいて、全く問題の無い環境で走らせることができるだろう。それにきっと彼らのガレージには、長距離用にガソリンで走るパナメーラのファーストカーが用意されているはずだから・・。 |
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