さらなる先進を象徴するマトリクスLEDヘッドライト新たに登場した「A8 L W12 クワトロ」と「S8」を目の当たりにして、少しだけ身震いした。まさに全身、上質感の塊。ヘッドライトはそれ自体がオブジェとしても成立するほどの美しさ。美しさだけでなく、マトリクスLEDヘッドライトと名付けられたこのハイテクパーツは、25個のLEDを独自にコントロールすることで10億通り!にものぼる配光パターンを実現。対向車だけを避け、周囲を明るく照らしてくれる世界でもっとも進んだヘッドライトだ。 視線を横にずらすと、そこにはアウディのトレードマークとしてすっかりお馴染みになったシングルフレームグリルが鎮座している。2006年に登場したA6以来続くこの大胆なグラフィックに、他メーカーが大きなインスパイアを受けたのはご存じの通りだ。 変形6角形の巨大な開口部に7本の横桟を通すデザインは同一ながら、フラッグシップたるA8 L W12 クワトロは隅々までギラギラしたメッシュを配し、これでもかと言うほどの迫力と存在感をアピール。一方のS8は内部をブラックアウトすることでスポーティさを演出している。 尋常ではない精緻な作り込み塗装の平滑度と鮮鋭性、プレスラインの鋭さ、面の張り、チリの小ささ、合わせの正確さ、要所要所にあしらったクロームの輝きなど、静的品質もちょっと信じられないほどの水準だ。目を近づけて細部を観察することで、細部にまで及んだ高度なクラフトマンシップを実感できる。が、いちいちそんなことをしなくても神業的ボディワークを感じ取ることはできる。ちょっと離れたところから一瞥しただけで、全体から凜とした雰囲気が伝わってくるからだ。 A8&S8の場合、ドアパネルだけで実に1000カ所もの測定ポイントが設定されている。そういった尋常ではない精緻な作り込みの数々が渾然一体となって、全体にただ者ではない存在感を与えているのである。 非日常の世界に包まれるドアを開けると、目の前に広がっているのは非日常的な世界。素材に始まり、表面処理、縫製、組み付け、造形、照明、メーターの刻みにいたるすべてが完璧なのだ。最高レベルのクラフトマンシップを投入したA8&S8のインテリアは、いまだ世界の一級品であり続けている。 A8 L W12 クワトロには2145万円、S8には1666万円という重いプライスタグが付いている。とはいえ、これほどの高価格車をポンと購入できる人の家に招かれたとしても、ここまで凝ったインテリアにお目にかかれる確率はまずゼロに近いだろう。 百聞は一見にしかずアルミと鉄とプラスティックとガラスでできた工業製品でありながら、そこに表現されているのは間違いなく「芸術」だ。細部にまで宿る美意識の濃密さは、BMW 7シリーズ、レクサス LSといったライバルたちを寄せ付けないレベルに達しているし、先日フルモデルチェンジしたメルセデス・ベンツ Sクラスにもまったく見劣りしない。 百聞は一見にしかず。買う意志がなくてもいいから、ぜひともディーラーに行って実車を眺めてみて欲しい。そうすれば「質感」という曖昧な言葉の意味をたちどころに理解できるに違いない。 化粧パネルの素材などは違うものの、インテリアは両車に共通だ。ただしホイールベースを125mmストレッチしたA8 L W12 クワトロには、ショーファードリブンを前提としたきわめて贅沢な後席が用意される。乗車定員を4人に割りきって設置したセンターコンソールには各種操作スイッチや折りたたみ式テーブルをビルトイン。10.2インチディスプレイを左右に装備するほか、オプションの電動調整式リラクゼーションシートを選択すれば、助手席を前に倒して、ただでさえ広い空間をさらに拡大できる。さすがに飛行機のファーストクラスとまではいかないが、ビジネスクラスに近い快適性だ。 車重を感じさせない“軽さ”まずは「A8 L W12 クワトロ」で走りだしたのだが、車寄せから道路に出るまでのほんの数メートルで驚きがあった。オールアルミボディであるとはいえ、全長5265mm、全幅1950mm、駆動方式はもちろんフルタイム4WDということで、車重は2.2トンに達する。にもかかわらず、この巨体が信じられないほど軽快に走るのだ。アシスト量が強く、指一本でくるくる回せるパワーステアリングもそう感じさせる理由のひとつだが、アイドリング回転数近くから強大なトルクを発する6.3L W12気筒エンジンや、ボディ全体をピンと貫く高い剛性感も、軽快感の演出にひと役買っている。 路上に出ると、ショーファードリブンを考慮に入れた電子制御式エアサスペンションセッティングが想像以上の優しい乗り味を提供してくれる。「コンフォート・モード」での動きは大きな船に乗っているようなゆったりとした感覚。運転席でステアリングを握っていたとしても僕はこういう乗り味が嫌いじゃない。むしろ好きだ。ただしそのあたりは人それぞれなので、フラットな乗り味がお好みの人はアウディドライブセレクトの「ダイナミック・モード」を選択すればいいだろう。 囁くようなサウンドと圧倒的なスムースさ初期モデルで感じた、鋭い段差を乗り越えたときのゴツゴツ感がすっかり消え去ったこと、ロードノイズが大幅に削減されたのも朗報だ。結果として、A8 L W12 クワトロは超高級サルーンに相応しい静粛性を手に入れた。 40km/hあたりまでの低速域ではステアリングがちょっと軽すぎると感じたが、速度が上がるにつれ手応えがしっかりしてくる。もっとも、軽いステアリングとクイックな回頭性の組み合わせは運転している実感に乏しく、ドライビングシミュレーター的な感覚がある。かといってダイナミックモードでは足が引き締まってきてしまう。そんな場合に役に立つのがサスペンション、AT、スロットルレスポンス、ステアリングなどのセッティングを個々にセットできる「インディビジュアル・モード」。いろいろ試しながら自分好みのセッティングを探し出していくのはとても面白い作業だ。 W12エンジンは囁くようなサウンドと圧倒的なスムースさが持ち味。それでいて、積極的に回していけば胸のすくような加速と豪快なサウンドを楽しめる。S8のV8ターボよりスペックは落ちるものの、大排気量12気筒エンジンでしか味わえない贅沢感は、フラッグシップモデルに相応しい。 プレミアムスポーツセダンのお手本アウディのラインナップは頭文字が「A」の通常モデル、頭文字が「S」のスポーツモデル、頭文字が「RS」の超高性能スポーツモデルという3階建て構造になっているが、フラッグシップモデルの8にRSモデルは用意されていない。したがって、「S8」がもっともスポーティなモデルということになる。 ホイールベースが短く、ウェイトも軽いボディに、W12を凌ぐスペックを誇る4.0L V8ターボを搭載。足回りにもスポーツサスを組み込んだドライバーズカーということで、後席にVIPを乗せるのが主目的のA8 L W12 クワトロとは乗り味はかなり異なる。とはいえ、尖ったやんちゃなスポーツモデルとはまるで違う世界観をもっているのがS8だ。 A8 L W12 クワトロと比べると足は引き締まっているが、粗さはまったくない。船に乗っているようなゆったり感こそ味わえないものの、静粛性を含め、このクラスに求められる快適性は十分クリアしている。路面を鷲づかみにするような濃密な接地感や速度を上げれば上げるほどフラット感を増していく乗り味はまさにプレミアムスポーツセダンのお手本。欧州車、とくにドイツ車を好む人なら、A8 L W12 クワトロよりS8の乗り味を好む人が多いはずだ。 安心してスロットルペダルを床まで踏める520ps/650Nmという強大なパワーもさることながら、S8のV8ターボはサウンド面でも“スポーツ”を感じさせてくれる。絶対的な音量は決して大きくはない。しかし、W12と比べれば室内に入ってくるサウンドの量はワンランク大きいし、乾いた音質もスポーティだ。もちろん、フルスロットルを与えたときの蹴飛ばされるような加速力も迫力満点。 A8 L W12 クワトロより速いことはパワーウェイトレシオから簡単に想像できるが、それだけでなく、加速時のフィーリングにも明らかな違いがある。S8のほうがフル加速時の姿勢変化(後傾)が小さく、前輪の接地感が高いから、安心してスロットルペダルを床まで踏めるのだ。A8 L W12 クワトロもS8もフルタイム4WDだから、ライバルと比べるとトラクション性能には余裕がある。その上で、S8にはさらなるアドバンテージが備わっているのである。当然、コーナリング性能でもS8に軍配があがる。 イメージ先行型のブランドではないもちろん、いずれのモデルもフルスロットルを与えればあっという間に200km/hオーバーの世界へと誘ってくれるポテンシャルをもっているわけで、ここ日本では非現実的な話になってしまう。けれど、クルマの本質面として、両車にそういう違いがあることは、選択の際のひとつの参考になるはずだ。 最先端のデザイナーズブランドを着るような感覚でアウディを選ぶ人が増えている。けれど、アウディは決してイメージ先行型のブランドではない。彼らは「技術による先進(Vorsprung durch Technik)」というキャッチフレーズを掲げながら、これまで数々の革新的技術をモノにしてきた。 理想主義的なエンジニアリングを推進力として、そこから滲み出る本物感をイメージ戦略に結びつけることに成功したからこそ、驚くようなスピードでプレミアムブランドに駆け上がることができたのだ。A8 L W12 クワトロとS8は、そんなアウディの姿をいまもっとも強烈に表現しているモデルである。 A8 L W12 クワトロ & S8・主要スペック【 S8 】 【 A8 L W12 クワトロ 】 |
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