メルセデスもまだ燃料電池の可能性を信じているフューエルセル(燃料電池)は、現在では簡便で分かり易い技術的内容を持ったBEV(ピュアEV)の台頭で影が薄くなっているが、トヨタやホンダ、ヒュンダイを始め各国のメーカーがその可能性を信じて開発を続けている。 中でもダイムラー社は、世界に先駆けてカナダのバラード社と共同でメタノール改質による燃料電池を搭載したNECAR1(New Energy Car No.1)を1994年に発表している。実は私もこの実験車に同乗したが、MB100(ミニバン)の荷室はまるで化学実験室のような機械やパイプで一杯だった。その後もメルセデス・ベンツは開発を続け2011年にはBクラス フューエルセル(以下、F-CELL)で世界一周ツアーも敢行した。私はこの両方のイベントに参加しているがメルセデス・ベンツのPR活動はこの分野でも徹底している。ちなみにこのBクラス F-CELLは2011年から2017年の間に合計200台が生産され、関連会社などにフリートとして渡されフィールドテストが行われた。 そして最初のトライアルから、ほぼ四半世紀が経過した今年の3月、メルセデス・ベンツは最新のフューエルセルモデルを公開した。ベースになったクルマはBクラスではなく、GLCである。背の高いSUVボディのトンネル部分とリアシートの下には2個のカーボンファイバー製水素タンクがレイアウトされており、700バールに加圧された水素重量の合計は4.4kgである。このレイアウトによって5人乗りのキャビンが確保されている。 システムサイズがおよそ30%小さく、性能が40%向上、そして使用プラチナ量が90%も減少したと言われるフューエルセル本体はフロントのエンジンルーム内に収まっている。後輪を駆動するZF製の電気モーターの出力は147kW(200ps)と350Nmを発生、車重は2トンを超えるが0-100km/h加速は6秒以下、最高速度は160km/hに到達する。ちなみにこの電気モーターは2019年に発売されるEQ-C(BEV)に搭載されるものと同一である。すなわちここですでにモジュールの一部として汎用化されているのだ。ちなみに4WDは当面出てこない。 大型電池搭載も、航続距離500km未満では不十分面白いことにこのGLC F-Cellはトランク・フロア下に13.8kWhの比較的大容量のリチウムイオン電池を搭載しており、フル充電で48kmの走行が可能で、燃料電池での航続距離435kmと合わせて最大で483km(約300マイル)に達する。 GLC F-Cellにはエコ、コンフォート、スポーツと3つのドライブモードがあり、さらに4つのパワートレーン・プログラムが存在する。ハイブリッド・モードでは両方のエネルギー源から電力を得るが、ピークパワー時の追加アシストはバッテリーから供給され、燃料電池は効率の良い発電状態を維持する。一方、フューエルセル・モードではバッテリーのSOC(充電レベル)を温存し、駆動は燃料電池の発電のみで行なわれる。 バッテリー・モードでは燃料電池は休止して、バッテリー電力のみでEV走行する。まさにプラグインハイブリッドで、エンジン(内燃機関)の代わりに燃料電池が組み合わされていると考えればよい。当然、走行時の回生エネルギーも充電する。最後に、チャージ・モードはバッテリーへの充電を優先する。 水素の充填時間はおよそ3分だがドイツには現在ではまだ34ヵ所の水素ステーションしか存在しておらず、来年ようやく100ヵ所になる。そして2023年までには400ヵ所に増加すると見込まれている。この状態では確かに純燃料電池車では心配で、プラグインHV化が必要なのがよく分かる。ドイツでの水素の値段は1kgあたり9から10ユーロ(約135円)で日本よりも高く、この地ではディーゼルとほぼ同じだ。 話を肝心のGLC F-Cellに戻して、これだけ複雑化したシステムを登載しても500kmに届かないのはやや不十分だと思わざるを得ない。しかも価格はおよそ800万円で、今年から1000台を目標に生産が始まるが、まだ一般ユーザーは買う事が出来ず、選抜された企業やグループへのフリート契約としてデリバーされる。 試乗の印象はまさに燃料電池車版のP-HEV最後に同乗テストの感想だが、僅かなロゴだけが付いた、外観がまったくスタンダードのGLCと変わらないのはやや興醒めである。やはり少しでも良いから燃料電池車に乗っているという事がわかる演出がもう少し欲しい。 走行スタートはまずバッテリーの電力で行なわれる。燃料電池に適当なプレッシャーが掛かって水素と酸素の反応が始まり、十分な電力が供給されるまでの僅かな間である。それ故に走り出しの感覚はEVとまったく同じで、力強く、そして静かで速い。また、通常の燃料電池車、例えばトヨタ ミライで走行中に聞こえる水素をスタックに送るポンプの音はほとんど聞こえて来ない。 シャーシは電池を搭載した結果、2トンを超える重量に達したボディに合わせてのチューニングがある程度成功しており、およそ60km/hを超えてからは、路面さえスムースであれば快適な走行を楽しめる。しかし不整路面に遭遇するとハーシュネスがフィルターなしに直接伝わってくる。また市街地で40km/hあるいは30km/hまで落ちると、ボディが揺すられ、路面からのショックも大きくなる。試乗車はまだ数台しか作られていないプロトタイプ故に、今後はもっと改善されるだろう。 ダッシュボード中央に表示される駆動系へのエネルギーの流れのイメージ映像は、実際は精密にコンピューターでコントロールされているので詳しくは分からないが、走りだして15分くらいからハイブリッド・モードからチャージ・モードに変化して来た。この感覚はまさにエンジンとEVを組み合わせたタイプのP-HEVと同じだった。 |
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