GTSの背景に絶妙なバリエーション戦略ありポルシェのバリエーション戦略にはしばしば舌を巻く事がある。 例えば「911」シリーズだが、スタンダードの「カレラ」に加えて常に30馬力ほどエクストラパワーとそれなりに差別化されたボディ関係装備を与えた「カレラS」、そしてトップモデルの「ターボ」、クラブスポーツ仕様には「GT3」がある。一方ボディのバリエーションはスタンダード、「4S」(4輪駆動)のワイドボディ(992では統一されるが)、そしてオープンエア・ドライバーのためには「カブリオレ」、「タルガ」、そして時折、限定バージョンとして「スピードスター」が加わる。 このマーケティング手法は4ドアスポーツサルーンの「パナメーラ」にも当てはまる。 現行でのボディ形状はスタンダードのハッチバックとシューティングブレークの「パナメーラ スポーツツーリスモ」の2種類に対して、エンジンはV6ターボとV6ハイブリッド、そしてV8ターボ、V8ハイブリッドが存在する。しかし、V8は欲しいが2000万円の大台は超えたくないと考える人たちはこれまでちょうどいいモデルがなかった。特に北米市場では多気筒、特にV8にこだわる人が多い。そこでポルシェが下した救済処置が今回のGTSである。 こうした背景で誕生したGTSのスペックを見ると4リッターV8ツインターボの最高出力は460馬力(338kW)、最大トルクは620NmとV6ツインターボを搭載する4Sよりも20馬力パワフルなだけ、また上を見ると550馬力のターボとの差は90馬力と非常にマーケティング的な数字に落とし込まれている。 さらに穿った考え方をすれば、つい先ごろAMGが「GT」4ドアバージョンの大掛かりな発表試乗会をアメリカ唯一のF1コースがあるテキサスのオースチンで行なったが、これに対抗している可能性も大いにある。というのもポルシェは試乗会の場所をバーレーンに決定、そのスケジュールにはF1コースでの試乗も含まれているからである。しかも試乗車にはクリスタルグリーンというAMG GT Rのグリーンに似たボディカラーまで用意されていた。 GTS専用の足回り&ブラック基調パーツはお約束さて、このGTS仕様はパナメーラだけでなくパナメーラ スポーツツーリスモにも用意されており、その性能は0-100km/hが4.1秒、最高速度は292km/hと発表されている。ただし30kg重いスポーツツーリスモは289km/hである。 搭載されているトランスミッションは全て8速PDKで、テスト車のシャーシにはオプションの3チャンバー・エアサスペンションが装備されていた。またシャーシはスポーツパフォーマンスを考慮して10mmローダウンされており、同時にシャーシマネージメント(PASM)はGTSのキャラクターに合わせてシャープなセッティングになっている。またブレーキはフロントに390mm、リアには365mmのベンチレーテッドディスクが向上した性能に十分なストッピングパワーを提供している。さらにオプションで4WSも用意されている。またこのテストに用意された試乗車は全て欧州向けでGPF(直噴ガソリン・エンジン用PMフィルター)が搭載され、燃費はNEDCで100kmあたり10.3リッター、スポーツツーリスモが10.6リッターと発表されている。 全てのGTSモデルのように、このパナメーラGTSもブラックを基調としたデザインアクセントが各所に与えられている。もっとも目立つのがフロントバンパー下のエアインテーク周辺のフレームで、リアエンドでは左右それぞれ2本のマフラーカッターを囲むように仕上げられたディフューザーが印象付ける。さらにインテリアではサイドシルのモデルネームプレート、ブラックのアルカンタラにアルミのアプリケーションがエクスクルーシブなスポーツムードを盛り上げてくれる。 スポーツカーより4ドアサルーンとしての役割が重要バーレーンの街、というより道はどこも単調で面白くない。ポルシェもそれを知っていて、試乗時間のほとんどはF1コースに当てられていた。 ポルシェのワークスドライバー、ヴォルフ・ヘンツラーの乗る「911ターボ」がペースカーで先頭を走る。夕闇の迫るバーレーンのF1コースは素晴らしく、それだけで興奮してしまうが、そんな余裕もなくターボのテールライトを追う。スポーツプラスモードでPDKはマニュアル、ただしPSMはONのままにしておくように指示されている。ターボを見失うものかと3速フルスロットル、そこからパドルでシフトアップして行くと速度計は230km/hをマーク、あっという間にミハエル・シューマッハー・コーナーが迫ってフルブレーキ、2速へ落として再びフル加速する。 前275/40ZR20と後315/35ZR20の前後異径サイズのタイヤとオプションのPCCB(ポルシェ セラミックコンポジット ブレーキ)は素晴らしいロードホールディングと安心の制動力を約束してくれる。それと、腰痛に悩む私がなんとか腰の痛さに耐えられたのはフルアジャスト可能な出来の良いシートのおかげだったかもしれない。 早々にパドックで休んでいると、ポルシェ ブランドアンバサダーのヴァルター・ロールが「これから走るけれども隣に乗らないか?」と誘いにきた。普通なら腰が痛いと断るのだが、彼のドライブを知っている私はさっそくピットへ戻って助手席へ乗り込む。思った通りヴァルターは最初のコーナーでじわっと、しかし確実にブレーキング、速度を十分に落とすと同時にステアリングを素早くクリッピングポイントに向け、今度はフルスロットルでコーナーを脱出する。2週間前に同乗したベルント・シュナイダーのやや力づくなスタイルとは違って、非常にスムース、終始安定した姿勢でしかも速く、あっという間に2周を終えてクールダウンでピットに戻る。 ヴァルターのドライブでも確認できたが、パナメーラはポルシェが求めた4ドアサルーンのカタチである。すなわち4シーターの快適性を可能な限り追求しつつ、それを犠牲にせずにスポーツカーのハンドリングをどこまで融合させられるか、という点を追求している。なぜならAMGと違ってポルシェには「Sクラス」がないからだ。まさか「乗り心地、快適性をお望みであればメルセデス・ベンツをどうぞ!」とは言えないのだ。 このパナメーラGTSは2018年の12月からドイツをはじめとする欧州向けに出荷が始まり、ベース価格はパナメーラGTSが13万8493ユーロ(約1800万円)、パナメーラ スポーツツーリスモ GTSが14万1394ユーロ(約1840万円)と発表されている。日本へのデリバリーは2019年5月と発表されている。 ※タイヤサイズの誤りを修正しました(2018年11月14日)。 スペック【 パナメーラ GTS 】 【 パナメーラ GTS スポーツツーリスモ】 |
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