オプション約20万円のバーチャルミラーは今ひとつ9月17日にサンフランシスコで開催されたワールドプレミアから僅か10日後に、わたしはこの「アウディ e-tron」に試乗するためにナミビアに降り立った。e-tronのプロトタイプによる開発テストに参加することができたのだ。 到着したのは首都のウイントフックから飛行機でさらに1時間半のビッターヴァッサーという町だ。ドイツ語で“苦い水(Bitterwasser)”という名前の町の郊外には広大な乾燥湖があり、その元湖底は非常に細かな砂が積もっていて、表面の摩擦係数は 0.4~0.6ミュー(※積雪路に近い摩擦係数)である。 アウディが特にこの場所でe-tronの頻繁なテストを繰り返しているのは、このBEV(バッテリー電気自動車)の4WDシステムはアウディとしては初めて前後輪に電気モーターを搭載した「クワトロ」であり、十分なテストが不可欠であったからだ。 我々6名の招待ジャーナリストはそれぞれ6台のテスト車に乗り込んだが、いずれもまだカムフラージュをまとったままであった。冒頭に述べたようにすでにエクステリアとインテリア・デザインは公開されているので改めて解説するまでもないが、思ったよりも常識的な自動車(SUV)の形をしている。 わずかにリアビューミラーに代わって取り付けられた潜望鏡のようなカメラが新しさを演出している。それだけではない、1540ユーロ(約20万円)のオプションで装備可能なこの小さな車外カメラは、全幅を15cmも狭め、空力特性を5%向上させる。これは後続距離に換算すると7kmに当たる。 ただし、このカメラの機能は完璧とは言えない。ドアの前方内側にある小さなモニター(7インチのOLED)は位置がやや低く、画面周辺が流れるのが不自然で、視認には慣れが必要だ。この手のeミラーは今のところ、高くて不便なだけでなく、ちょっとした衝突事故でも高い修理費用が掛かってしまう。未来志向だからと言って安易に装着するのは考えものかもしれない。 0-100kmh加速5.7秒、最高速度200km/hそれ以外の操作類は「アウディ A8」や「A6」などのMLB系(VWグループのプラットフォームを採用するモデル群)とほぼ同じで迷うことはない。誤操作を防ぐためにハンドレストでカバーされたセレクトレバーはまったく普通の配列R、N、D/SでPは赤く表示され、シフターのサイドにあるプッシュボタンを押し込む。 ドライブロジックはオート、コンフォート、ダイナミック、エフィシエンシー、インディビジュアル、オールロード、オフロードの7モードがプリセット可能だ。そしてそれぞれのモードにおいて前後のアクスルにフランジされた電気モーターが最適な基本的トルク配分を行う。さらに、各車輪でのスリップを感知するとブレーキ介入でトラクションを確保する。タイヤサイズは前後ともに255/55R19である。 路面状況を考慮してまずはオフロードをセレクトする。エアサスペンションは車高を50mm上げ(最大では76mmまで上昇)、ESCやスロットルマッピングを緩慢なキャラクターに変える。 テスト走行の前に、ESC、スタビリティ・コントロールは常にONにするようにと注意された。というのはOFFで不用意に急加速すると前後の電気モーターが発生するパワー、前:125kW(170馬力)/247Nmと後140kW(190馬力)/314Nm、そしてシステム出力300kW/408馬力、664Nmが突然襲い掛かるからだ。 ちなみにSポジションでドライブ・ペダルをキックダウンのように一気に踏みこむとブースト効果で前後のモーターは135kW(184馬力)と309Nm、そして165kW(224馬力)/355Nmのエクストラ・パワーを6秒間発生する。カタログ上のダイナミック性能は0-100km/hは5.7秒、最高速度は200km/hでリミッターが介入する。 2.4~2.5トンというヘビーな車重を感じる走り最大で13300rpmまで回転する電気モーターはクーラントの循環で180℃に保たれる。このシステムは暖房と冷房のために使われ3kWのエネルギーを消費するが、その温度管理のおかげで航続距離はおよそ最大で10%伸びるという。 バッテリーは396Vで、36個のセルモジュールから成り、アルミ製の各モジュールには12個のパウチタイプのセルが収納されている。バッテリーケースのサイズは2280mm×1630mm×34mm。アウディは将来的には何社かのサプライヤーが供給ができるように立方体(プリズマタイプ)のセルも使用可能なように設計を進めている。というのはドイツの報道によればサプライヤーのLGケミカルが需要の多さを盾に10%の値上げを要求してきたらしい。 実際の走りの印象はやはり重さを感じる。空車重量で2.4~2.5トン。最も大きな要因はバッテリーで、MLB に組み込まれた耐クラッシュ構造のフレームと合わせると699kgにもなる。それにe-tronは全長4901×全幅1935×全高1616mm、ホイールベース2928mmとけっして小さなクルマではない。おかげで5人乗りのキャビン、特に後席は広々としており、トランク容量は通常で600リッター、後席のバックレストを倒せば1725リッターと引越しの手伝いもできる。 さらにフロントボンネットの下には60リッターの容量を持つスペースがあるが、ここには充電ケーブルなどが収納できる。空力特性はスタンダードでCd=0.28、電子リアビューカメラを装備すると0.27に低減する。 さらに未来的なデバイスとしてアウディコネクトAPPを使ってアンドロイド・スマートフォンを電子キーの代わりに使うことができる。これは4名まで登録でき、プログラムされた各自のデータによってシートポジションやエアコン温度調整もプリセットが可能だ。 約1000万円、すでに2万5000台の予約が舞い込む湖底のテストコースを砂埃を巻き上げながらかなりのスピードで一周すると航続距離は一気に300kmを下回る。この間で驚いたのは電気モーターとESCのブレーキ制御によるトラクションと姿勢制御の素早く、そして繊細なコントロールだ。特にアンダーステアが起こった際の内側車輪の絶妙なブレーキングには舌を巻く、これはアナログな内燃機関ではできない芸当である。許可を得てESCをオフにした状態で走ったが、文字通り電光石火のパワー・ピックアップを呼び起こすアクセルペダルとブレーキそしてステアリングでの古典的なコントロールも可能なドライバビリティも見せてくれた。ちなみに最大トーイング可能重量は1800kgだ。 重要なブレーキについても述べておこう。ステアリングホイールのパドルで3段階の制御可能なブレーキ回生時の最大制動力は0.3Gで、アウディによれば通常走行時のおよそ90%は回生ブレーキで用が足りるという。0は主にアウトバーンなどでコースティングを多用、航続距離を伸ばしたいときにセレクトする。 このアウディe-tronは急速充電ステーションで150kWまでのDC/DC充電が可能で、およそ30分で空のバッテリー状態で70kWh程度、すなわち80%が充電可能で、これで320kmは走れると言われる。もちろん自宅での交流充電も可能で、スタンダードで11kW、オプションで22kWの充電器が用意されている。 今回のテスト走行を終えて感じたことは、アウディは自動車メーカーの誇りと自信をもって「電気自動車」を完成させるべく、熱意をもって開発をしているという点である。当たり前に聞こえるかも知れないが、決してゴルフカートのようなクルマにはしたくないのである。その点では確かに成功しているといえよう。特に様々な状況を考慮した6段階のドライブロジック、そしてエアサスペンションがもたらす快適性に加えて、アウディらしい端正なデザインと高品質なインテリア素材、そして精緻な仕上げ品質がその証である。 もちろん価格は約8万ユーロ(約1000万円~)と安い買い物ではないが、さらに高価な「テスラ モデルX」よりは自動車としては魅力的だ。そのためかはどうかは分からないがアウディによればすでに2万5000台の予約が舞い込んでいるらしい。 開発テストはとても上手くいっており、アウディは12月中の発売が可能と発表している。そうなると「メルセデス・ベンツ EQC」よりも半年以上早くなり、BEVの販売競争において、少なくとも時間的にはアウディの利するところとなる。今後は充電インフラの建設、そして電気エネルギーをどこから入手するかというWell to Wheelが課題であるが、少なくともドイツ国内においては政府が本気を出しており、解決は時間の問題かもしれない。 スペック【 アウディ e-tron 】 |
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