大ヒットした初代とはまるで違うクルマに仕立ててきた新型「ホンダ ヴェゼル」に試乗した。初代は2013年に登場し、世界で384万台を販売したベストセラーのコンパクトSUVだ。新型はプラットフォーム(車台)をキャリーオーバーさせながらもデザインの方向性をかなり変えてきた。ヒットモデルの後継だけにキープコンセプトデザインを採用する誘惑にも駆られたはずだが、勝手気ままな消費者目線からすると、ガラッと変わったほうが面白いのでホンダの挑戦に拍手を送りたい。 デザイン上の特徴は2点ある。ひとつは縁取りのないボディ同色のフロントグリル。細長いヘッドランプとの組み合わせによって独特の表情を見せる。路上で実車を見ると、画像、映像で見るよりも、よくも悪くもインパクトが薄まるが、好き嫌いがはっきりする顔だ。保険として純正オプションで縁取りのある黒いフロントグリルも設定される。確かにそちらのほうがすんなりヴェゼルの新型としては受け入れやすい。ただ飽きるのも早いのではないかと想像する。 もうひとつの特徴は水平基調のサイドデザイン。リアにボリュームがあり、ボディサイドに後方へ跳ね上がるようなキャラクターラインが入っていた初代とは打って変わって、水平のキャラクターラインがヘッドランプからリアコンビランプまで貫かれている。新型は初代よりも大きく見えるが、ホイールベースは2610mmで同一。全長がプラス35mmの4330mm、全幅がプラス20mmの1790mm、全高はマイナス20mmの1590mmと、長く、幅広く、背が低くなった。室内寸法は80mm長くなり、40mm幅が狭まり、40mm低くなった。車台を流用しながらもスタイリングとサイズをうまく変え、まるで違うクルマに仕立てている。 パワー感はキックスに近いが、活発さも燃費もヤリスクロスが上新型は全車1.5L直4エンジンを搭載。そのエンジンで駆動するガソリンモデルと、そのエンジンを主に発電に用い、モーターで駆動するハイブリッドモデルがある。まずガソリンモデルから試乗。ハイブリッドに装備の異なる3グレードが設定されるのに対し、ガソリンは1グレードしか設定されず、FWDか4WDかを選べるのみ。 思ったほど力強く加速していかないなというのが第一印象だ。初代のほうが元気がよかったように思う。試乗したのが4WDモデルで、車両重量が1330kgとFWDより80kg重く、さらに初代の4WDより60kg重いこともその一因だろう。データを見比べると、初代のほうがエンジンのスペックもやや高かった(あくまでピーク値だが)。 次に乗ったe:HEV(ハイブリッド)のFWDでは、ガソリンモデルで感じた物足りなさは打ち消された。初代のハイブリッドとは仕組みが異なる。新型が採用するのはホンダが上位モデルにも用いる2モーターのタイプであり、発揮する出力もトルクも段違いに大きい。パワーと車重の関係は「日産 キックス」に近く、体感上の力強さも似ている。ただし、「トヨタ ヤリスクロス」はヴェゼルやキックスに比べ車重が200kg近く軽いので、明らかに活発で、燃費も飛び抜けてよい。 ドライブモードスイッチはエコ(ECON)、ノーマル、スポーツとあるが、スポーツにしてもさほどスポーティーになるわけではなく、これならノーマル一択でOK。ステアリングパドルは減速度をコントロールするためにあり、左を引くと強まり、右を引くと弱まる。4段階で調整が可能だ。ATセレクターでBレンジを選べば、最も強い減速度を得られるモードで固定される。慣れるとアクセルペダルとブレーキペダルの踏み換え頻度を減らすことができて便利だった。 エンジンの音対策をもう少し頑張ってほしい新型のハイブリッドシステムは基本的にモーター駆動である。EVのようにスムーズに発進し、変速ショックなく加減速する。エンジンは必要に応じてかかるが、それは駆動のためではなく発電のため。これがこのシステムの特徴だ。時々こうしてエンジンがかかって発電するからこそ、大きなバッテリーを搭載しなくても電動車として成立している。 ただしエンジンがかかるタイミングは自動制御されるので、ドライバーが予期しないタイミングで突然かかることもある。ガソリンモデルなら常に発生していて気にならない音なのだが、時々突然かかるとうるさく思える。この不定期に発するエンジン音への対策をもう少し頑張ってほしい。エンジンの音量、音質で対応すべきか、遮音を強化すべきかはわからないが、もう少し静かな車内を望みたい。 乗り心地は快適だ。路面状況を問わず、落ち着いた動きに終始し、バタつきを見せることがない。超高張力鋼板の使用比率を高め、ステアリングコラムを高剛性化し、フロントサスのフリクションを低減するといった地道な対策が奏効している。4輪のスプリングのバネレートを先代よりも10%落としてソフトな乗り心地を獲得している。ソフトにするとダンパーが底付き(バンプストップラバーに当たる)した際に不快なショックが生じるが、ラバーの特性を最適化することでうまくいなすようにしたという。実際よりも大きなクルマ、Cセグメント以上のモデルをゆったり走らせているように思えるのはこうした対策の効果と思われる。前述の車重の重さも、この面では有利にはたらいているのかもしれない。 リアハッチの予約クローズやスマホキーなど便利な機能が充実フルモデルチェンジによって、ADAS(先進運転支援システム)や予防安全装備もアップデートされ、ライバルと同等以上の性能が備わった。ボディの下に足をかざすだけでリアハッチを開閉できるだけでなく、ヴェゼルはハッチが開いた状態で予約クローズスイッチを押すと、人間が離れると自動的に閉まる機能が付いた。 ブレーキペダルを踏み続けなくても停止保持されるオートブレーキホールドが、いったんエンジンを切って再始動してもオンの状態が維持されるようになったのもグッドニュースだ。クルマを離れた後、再び運転し始め、この機能がキャンセルされているのに気づいた時のイライラがなくなった。 スマホを使って施錠/解錠、始動ができるようになったのも、ポケットをキーで膨らませたくない人、そもそもキーを持ち歩きたくない人にはありがたいはずだ。ただし始動する度にメーターに表示される認証番号をスマホに入力する作業はやや面倒。全体として使い勝手が大きく向上する地味な変化が数多く見られる。 今回の試乗では、もう少し力強さを感じさせてくれたらという第一印象を抱いたが、もう少し長時間、長距離を試して多角的に評価したい。特に今回試せなかったe:HEVの4WDは、リアにモーターを配したいわゆるe四駆ではなく、プロペラシャフトを用い、常時リアにも少しトルクを配分し、必要が生じれば大トルクを配分することも可能なタイプであり、ぜひ路面のミューが変化するような悪路でも試してみたい。 悪路といえば、ヴェゼルのハイブリッドはロードクリアランスが195mm確保されている。これは優秀。やや深い積雪を走行する場合や、凹凸のある路面でボディ底部を打ったりこすったりするのを避けるのに有効だ。ただしより悪路を走行する機会が多いであろう4WDは180mmと逆に低くなるのが玉に瑕(ガソリンモデルはFWDが185mmで4WDが170mm)。とはいえヤリスクロスやキックスは全車170mmなので、ヴェゼルはコンパクトな街乗りSUVのなかでは悪路に強いといえる。 スペック例【 ホンダ ヴェゼル e:HEV PLaY(FF) 】 |
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