腰高感のないバランスの良い走行感覚頻繁に行く機会はないが、コペンハーゲンの空港に降り立つ度、フローリングや一面の窓ガラス、間接照明のライティングなど“木のぬくもり”を感じさせる温かみあるインテリアが美しいと感心する。一見、殺風景と思えるストックホルムの駅でさえ、凝ったデザインのウッディなベンチが印象的だった。華美ではないがデザイン性に富んだ、「シンプル&クリーン」なモノや空間。これが「スカンジナビアンデザイン」の魅力だ。 今回の試乗モデル「ボルボ V90 クロスカントリー」も、そんな美しさを体現した一台だ。全長4940mmのサイズを活かした、ワゴンスタイルならではの伸びやかなプロポーションとなっている。エッジを効かせながらも無駄なプレスラインはなく、面で力強さをアピールしている。また、通常のワゴンよりグラウンドクリアランスが高めの“クロスカントリー”だが(最低地上高はV90より55mm高い210mm)、オフロードも難なくこなす逞しさを感じさせながらも腰高感はなく、バランスが良い。 そもそも、実用的なイメージの強い“ワゴン”に対して、あまりカッコ良い印象を抱いたことはなかったが、このクルマは素直にスタイリッシュと思える。 オンデマンド型の4WDシステムを搭載インテリアも、ボルボらしさが光る。まさにウッド使いが上手く、レザーとの色味のマッチングが絶妙だ。そして、その中でキラッと光るスイッチ類がアクセントとなっている。縦長のディスプレイの両サイドに、同じく縦長にレイアウトされたブロワーが斬新だ。 試乗したグレードは「T5」。ボルボ最新の「Drive-E」パワートレーンを搭載する。独自開発による、軽量・コンパクトで効率に優れるのが特徴だ。直列4気筒2L直噴ターボエンジンは、最高出力187kW(254ps)/5500rpm、最大トルク350Nm/1500-4800rpmを発生し、8速ATが組み合わされる。 AWDは、ボルグワーナーのシステムが搭載される。条件の良いアスファルト路面を走行時は基本、フロント駆動となり、走行抵抗をなくすことで効率を高める。しかし、前輪が滑った時には瞬時に必要なトルクをリヤに流す。 スパイクタイヤ装着でも快適な乗り心地さて、今回のイベントは、通常のニューモデルのローンチではなく、「ウィンターテストドライブ」として開催された。ストックホルムからさらに国内線に乗り、オスターサンド空港に降り立つと、早速試乗車の隊列が出迎えてくれた。冬の北欧となれば、極寒の地を予想していたのだが、意外にも外気温はマイナス1度と暖かい。ちなみに、前の週はマイナス20度だったそうだ。雨が降り、気温が上がり、結果、車道の雪はほとんど溶けた状態である。良いのか悪いのか…。 とはいえ、完全なドライ路面ではなく、滑りやすいとされる温度だけに、緊張感のあるドライブのスタートとなったが、やがて全身の無駄な力が抜け、リラックスしていた。緊張感がいつの間にか安心感に変わっていたのだ。 ファースト・インプレッションは、すごくスッキリとした乗り味だ。剛性感が高く雑味はないのだが、ドイツ車みたいにバシッと硬質な感じでもなく、デザイン同様、有機的な優しさがある。雪があったりなかったり、しかも足元はスパイクタイヤとなれば、かなり粗い乗り心地かと思いきや、これがすこぶる快適。Eco、Comfort、Off-Road、Dynamic、そしてIndividualと5つのドライブモードを選択でき、ステアリングの重さやアクセルレスポンス、ブレーキペダルフィールなど、ドライバーの好みを選べるが、今回の試乗シチュエーションでは、基本、Comfortモードで何の不満も感じなかった。 そして、静粛性の高さにも驚かされた。リヤのバルクヘッドを持たないワゴンボディなのに、ガリガリと路面を掻く音が聞こえるでもなく、パッセンジャーシートはもちろん、リヤシートの乗員との会話を妨げる雑音もない。全般的に、上質感が印象的な走りだ。 氷上ではESCスポーツモードが楽しいさて、2日目のテストステージは氷上ドライブ。30~40cmほどの厚さに凍った湖に作られたスラロームやハンドリングコースでの走行だ。立っているのがやっとなほどのツルツル路面。しかも、相変わらず外気温は高めで0度前後。溶け出した水が氷を覆うようなクルマにとっては最も滑りやすいコンディションで、スパイクタイヤといえどもグリップは辛そうだ。実際、走るほどに路面はテカテカの鏡面状態となっていった。 しかし、ここでもV90クロスカントリーは驚くべきトラクション性能やハンドリングを披露した。スタート位置からジワッとアクセルを開けると、シュシュッと一瞬路面を掻いた後、トラクションがかかる。ひとたびタイヤが転がれば、過剰にアクセルを踏み込まない限り、スムースな加速を見せる。さらに、ステアリングを切ると、わずかな舵角からしっかり反応する。 コースに慣れてくると徐々にペースが上がり、すると、さすがにクルマは至るところで滑り出す。ここで活躍するのがESCだ。通常モードでは、限りなく滑りを押さえ込むよう、早いタイミングでESCが介入し、安定性を確保してくれる。一方、ESCスポーツモードを選ぶと、ある程度スキッドを許容する。これが実に楽しい。しかも、これほどの低μでありながら、ESCの介入が唐突でなく、ドライバーのコントロールを自然なフィーリングで助けてくれる。タイヤのグリップあっての電子制御だが、あたかもドリフトをコントロールしてくれているかのような感覚だった。 スポーティな走りもオフロードも可能な万能ワゴンこのように、路面の状況やドライバーのスキルに応じて、滑りやすい路面でさえ、いかようにもコントロールできるのは、けっして、AWDのみのおかげではない。むしろ、「高いシャシー性能」と「電子制御」のなせる技と言える。そして、これがボルボの考える「安全性能」でもある。 今回は特設コースでの試乗だったが、このようなコンディション、スウェーデンでは特殊ではなく、日常的だ。なるほど。これだけ過酷な条件下で安心して走れるよう作り込まれているため、ボルボはひときわ安全性が高いのだ。ということを、身をもって再確認した。 V90 クロスカントリーは、スタイリッシュで車格に見合った上質な走りだが、その一方、オフロードもこなし、スポーティにも走れるアクティブな機動性を備える万能なワゴンだ。 スペック例【 V90 クロスカントリー T5 AWD モメンタム 】 |
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