今までの常識を超越した存在テスラ・モデルXに乗り込もうと思ってクルマへと近づく。すると、運転席のドアが自動で開き、ドライバーを迎えてくれる。もちろん、隣に駐車車両があったり障害物や壁があればセンサーが感知し、それらに当たらぬようにドアを開けてくれる。ドライバーはそのままシートに座り、そしてブレーキを踏む。すると、ドアは自動的に閉まる。 こうした機能を紹介すると真っ先に来る反応は、「それ自分でやった方が早くない?」とか「実際には使わないでしょ?」といった類のもの。しかし、開閉の速さは、いわゆる機械の作動にイライラを覚えるレベルをクリアしており、すこぶる便利と感じる。 おそらくこの機構に慣れてしまったら、出先のトイレで水を流すのを忘れる(自宅が自動洗浄機能付トイレの人あるある)のと同様に、他のクルマを使う時に乗り込んでブレーキを踏み、ドアが閉まるのを待つ人が出てきてもおかしくないレベルだ。 テスラは、こんな具合でこれまでのクルマとは、もはや生きている世界が違うともいえるほど、思想や哲学が違う存在である。おそらくそう考えた方が、古いタイプの方もスッキリするんじゃないかと思う。 例えば「ドアは自分で開けるから良いんだろ」とか「そんなの本質的じゃないギミックだろ」と思っている、そこのあなた、である。 まぁ、この辺りの感覚は人それぞれだし、クルマに求めるものも十人十色だから仕方のないことだが、僕はこう感じた。この機能は楽しい! いやそれどころか、もっともっと、これまでのクルマとは違う価値観をたくさん見せつけて欲しい! と。そしてモデルXについては、「激しく欲しい!」と心底思ったほどだ。 ヘビー級ながらも超俊足ついに日本上陸を果たしたテスラの新型である「モデルX」。そのメカニズム的な構成に関しては、既に販売されている主力モデルであるセダンの「モデルS」と多くを共用している。 今回試乗したのは「P90D」と呼ばれる仕様をさらにパワーアップした“ルーディクラス(LUDICROUS=馬鹿げた)”と呼ばれる仕様。「P」はパフォーマンスを意味し、バッテリーは「90」kWh仕様、「D」が示す前後に1つずつのデュアルモーターを備えた4WDとなっている。 出力はフロントのモーターが263ps、リアのモーターが510psを発生し、システムの合計出力は539ps、トルクは実に967Nmを実現している。これによって、0-100km/h加速は3.4秒、最高速は250km/hを誇る超俊足ながらも、航続距離は467kmを達成している。 こうして数字でその動力性能をみると、まさに圧倒的だと分かる。しかしながらモデルXのディメンションは、全長5037mm、全幅2070mm(ミラー格納時)、全高1680mmという巨体。そして車重は実に、2.5トンをわずかに切るくらいの超ヘビー級なのである。 そんなクルマがこれほどの動力性能を実現しているのだから驚きを隠せない。事実、箱根ターンパイクで走らせると、料金所からの約10%近い上り勾配をまったく感じさせないどころか、下り坂? とすら思えるような加速を見せつける。コーナーから次のコーナーまでは、まさに「ワープ!」という表現がふさわしい(というかこの表現、昭和だろうか……)。 使い勝手の良さと“未来”が同居今回の試乗車はサスペンションがエアサス仕様となっており、一般道はもちろんのこと、箱根ターンパイクのようなワインディングでも超快適に走れたのだった。これはもちろん、重量がかさむバッテリーを床下に敷き詰めている効果でもある。重量は重いけれど重心は低い。それがゆえに、その背の高さからしたら信じられないほどスマートで、気持ち良いコーナリングを披露してくれる。 いやむしろ、ターンパイクでこれだけ滑らかに力強く爽快に駆けぬけるクルマを探しても、他にはなかなか見つからないだろう。そんな印象さえ受けた。つまり、その動力性能は圧倒的ながら、滑らかさでは高級サルーンに匹敵するものがある、ということ。 室内はモデルSと同じように大型のディスプレイを備えており、ここでほぼ全てを操作する仕組みは変わらない。それにしてもインテリアのデザインもシンプルながら機能的かつ、フューチャリスティックな感覚が漂っていて、クルマっぽくない感じが良い。好みは分かれるだろうが、僕はこのモダンな空間が、かなり気に入っている。 試乗車は3列シート。3列の場合は、6人乗りと7人乗りが選べる。そして後に2列シートの5人乗りも登場するという。使い勝手に優れるSUVながら、圧倒的な動力性能と、滑らか極まりないコンフォート性能が同居するのだから、もはや開いた口が塞がらない。こうした存在は、これまでにない。 しかしモデルXにとって、そうした動力性能やコンフォート性能は当たり前の話。モデルSで実現してきたことを「X」でも実現したにすぎないからだ。ならば、モデルXらしい部分は……? 新世代の選択肢それは“ファルコンウィング”と呼ばれるリアドアを採用したユニークな構造だろう。これは、単純なガルウィングとは違う構造を持っており、屋根の部分に1つ、そしてルーフ面とサイドウインドー面の間に1つ“関節”が与えられる。 それゆえに、ガルウィングのクルマだと開閉できない可能性がある30cmの間でも、ファルコンウィングドアなら開閉が可能。リモコンキーでも操作可能だし、当然センサーが搭載されていて、障害物や天井が低いところなどを検知して適度なところで停止する仕組みだ。 しかも、その動作が美しすぎる。まさに知性を持つ生き物が羽を広げるような感じを受けるのだ。そしてこれも今までのクルマからは感じたことのない、新たな面白さ。それがモデルXには強く感じられるのだ。 さらにテスラといえば、将来の自動運転につながる技術を用いた運転支援システムを豊富に用意している。この分野において、機能的にはメルセデス・ベンツのEクラスがもっとも進んでいるが、それに迫る内容のアシスタンスを備えており、高速でウインカー操作をすると車線変更する仕組みは既にモデルSから採用している。また、逐一アップデートがクラウドを介して行われるのも特徴で、今回もOSがバージョン8.0にアップデートされ、さらに知的な判断を行うロジックが盛り込まれた。これによって追従時などは2台先の動きまで見て制御を行っているという。そしてこの機能は当然、今後もクラウド経由でどんどんアップデートされていくわけだ。 こうしてみてくると、走る喜び、操る楽しさ、精緻な作り、渾身の造形……そうした20世紀の自動車において、“価値”とされてきた要素をある意味で色褪せさせる感覚が、テスラのプロダクトにはあると思う。 もちろん、これまでの自動車の価値観に沿った優れたクルマにも僕は魅力を感じるが、テスラにはそれとは全く別のベクトルや次元で、価値や魅力を存分に感じている。これまでのクルマからは感じられなかったものだけに、とても新鮮で余計に興味深く感じるのだ。 そしておそらく、こういうところに自動車の未来(の一部)があると思える。全てがこちらの方向にはならないだろうけれど、今後は必ずやテスラのような新たなベクトルや次元を持ったクルマが次々に登場して、我々にとって新世代の選択肢を与えてくれるはずである。そう、自動車というものに新たな感覚のチョイスをもたらすのが、テスラなのである。 ■インプレッション動画はこちらから スペック【 テスラ モデルX P90D(標準仕様) 】 |
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