マカンを超える全幅のミドルサイズSUV「F-PACE(エフペイス)」はジャガーが初めて手がけたSUVだ。SUVのオーナーやSUVに興味を抱いていて、さらには気持ち良く運転できる実用的なプレミアムカーを探しているなら、F-PACEは注目に値する。 グレード構成は大きく3つ。ディーゼルエンジン搭載の「20d」(ピュア、プレステージ、Rスポーツの3グレード)、スーパーチャージャーで武装したガソリンエンジン搭載の「35t」、そしてそのエンジンを極限まで使うパフォーマンスモデルの「S」。後に詳しく述べるが、それぞれに良さがあり、選択はとても悩ましい。 カテゴリーはミドルサイズSUVだが、国際基準でのミドルサイズ感と捉えたほうが良い。と言うのも、国産SUVこそ全幅拡大を抑えているが、輸入車勢のそれは今や1900mm前後にまで拡大している。このF-PACEが意識しているポルシェのミドルサイズSUV「マカン」に至っては1925mmとビッグSUV並み。しかし、F-PACEはそれを超える全幅1935mm。ちなみに全長は4740mm、全高は1655mmとなっているので、特別見切り性能が悪いわけではないし、フロントオーバーハングが短いので実際に運転するとサイズよりも小さく感じるが、絶対的な大きさは変わらないので狭い道を頻繁に走るなら実車でのチェックは必須だ。 なぜそんなに大きくなったのか。狙いは、SUVとしてのアクティブな使用に適したゆったりと優雅に使いこなせる広い室内空間。さらには横方向の踏ん張り力を向上させて安定感と旋回力を向上させることにある。そもそもジャガーは、このSUVをパフォーマンス・クロスオーバーとしている。さらにそもそも論を言えば、車名のF-PACEのPACEは、ジャガー創立時の理念に掲げられた3本柱「Grace(優雅さ)」「Pace(速さ)」「Space(広さ)」から来ている。通常のSUVではなく強いスポーツ性を狙っていることは、容易に想像できるはずだ。 エクステリア&インテリアの印象は?すぐにでも走りの実力を知りたいという方は3章に飛んでもらうとして、デザインや使い勝手、室内の作りにも触れておこう。強く傾斜したフロントガラスやリアガラス、さらにドアハンドル上部からルーフにかけて絞られたスタイルのため、大柄なボディサイズのわりにスタイリッシュな印象を抱く。土臭さは一切なく、アーバンライフこそが生息域と思えるクロスオーバー感が漂う。 シートは着座位置が高くSUVであることを再認識させられる。乗り降りに苦労するレベルではないが、スカートの女性だと若干足を上げるのに気を使う高さと言えば伝わるだろうか。その分、乗り込んでからは高い視点からの開放的な視界が広がり、景色を眺めながらゆったり走ったら気持ちよさそう。ちなみに同乗者のエスコート気分&ムードの演出にエクストラを払えるなら、ドアの開閉と連動する電動格納式のステップを選択するのも良いだろう。46万円と値は張るが、スカートだろうがスマートに乗り降りが可能になる。 室内の広さは、さすが全幅1935mm。シートが的確に体を支えつつ、上半身スペースが広くてゆとりと開放感が得られる。インテリアには無駄を配したシンプルかつ平面的で、近未来的な感覚を抱く。運転席目の前には12.3インチのモニターがあり、バーチャルコクピットとして4種類のテーマをもったスピードメーターなどが表示される。さらにセンターには10.2インチのタッチスクリーン。様々な機能をここに集約して一括コントロールする手法は以前からジャガーが採用しているが、その反応速度が桁違いに良くなった。これならストレス無く各種設定を行えそうだ。 ロングホイールベースの恩恵などで、後席は膝下スペースに余裕がある上、シート形状が良くリラックスできる。ラゲッジルームは色合いのせいか見た瞬間こそ狭く見えるが、ドライバーを抜かずにゴルフバックを無造作に詰めるほど広くて実用的だ。 リストバンド型の補助的機能を発揮する鍵も興味深い。腕時計のようにはめて海や山遊びができるのが良い。 アルミ主体のボディとランドローバーの経験値SUVは全高が高く必然的に重心が高まり、車両重量もかさむので、その走りは体にフィットしない服を来て運動をするような感覚を抱くのが通例だ。しかしF-PACEの走りには、フィットする服のような爽快感と心地よさがあった。 「ジャガー初のSUVでこの完成度は素晴らしい」との声も聞こえてくるが、それもそのはず。ジャガーは今、姉妹ブランドに4輪駆動の王様的存在のランドローバーを持つ。同社によってタフさや快適さやスポーツ性など現代のSUVに求められる要素はとことん鍛え上げられており、そのノウハウを存分に使えるわけだ。 例えばスポーツ性で言えば、ランドローバーには「レンジローバースポーツSVR」がある。F-PACEを少し大きくしたサイズ設定ながらも、ワインディングどころかサーキットまで攻められるモデル。当然の4輪駆動で、550ps・680Nmを発揮する5L V8エンジンまで手なずける。そんな背景がF-PACEの完成度を高めているのだ。 感心させられたのがF-PACE専用に立ち上げた新規シャーシと新規4輪駆動システム。ジャガーが10年以上鍛え上げてきたボディ部へのアルミニウム使用技術を駆使して、今回は80%がアルミニウムで2%が超軽量なマグネシウム、残りは各種スチールといった具合に、適材を適所に使う軽量かつ高剛性のハイブリッドボディ構造を採用している。 その効果だろう、体にフィットするような操作性、車体の動きの良さが発揮されている。またエンジンなどの重量級動力関連パーツの搭載位置などにもこだわり、前後重量配分50:50というスポーツカー並みのバランスで仕上げた効果もあって、荒れた路面での旋回中も四輪が前後連結同調しているような動きを示し、腰高感や不安感を伴う4つの足まわりがバラバラに動くSUV的な動きが皆無なのも好印象だ。 SUVのレベルを超えたFR的な旋回力そのシャーシ性能をさらに活かしているのが、前後トルク配分を通常時は90%もリアに分配して、FR的なハンドリングの良さを発揮する4輪駆動システム。スイスイとカーブを駆け抜けられるのは当然だし、少し強引にアクセルを踏んでカーブを脱出しようとする時などは、瞬時にフロントタイヤがグイッと駆動してクルマをスムーズに加速させるなどとても賢い。資料に記載のあった旋回中の内輪タイヤにだけブレーキをかけて旋回力を高めるベクタリング制御の効果こそ感じられなかったが、不思議なほどグイグイと曲がりこむ結果から判断すると、気がつかないようにサポートをしてくれているのだろう。何はともあれ、この旋回力はSUVのレベルを完全に超えている。 その旋回力に加えて、乗り心地をさらに上質にしたい欲張りな方は、「20d」と「35t」には約20万円でOP設定(※「S」と「FIRST EDITION」には標準装備)される「アダプティブダイナミクスパック」を選択すると良い。凸凹を超えた時のコツコツとした突き上げや振動や音などが半減するイメージで、費用対効果的にもオススメだ。 太鼓判は「S」、「35t」も万能、気になる「20d」は…最後に最も悩ましいパワーソースの選択にも触れておこう。手放しでオススメしたいのは高くて申し訳無いが「S」だ。前述した旋回性能や車体の安定性をベースに、S専用にチューンされた380ps仕様のガソリンエンジンの中回転から上の刺激的な排気音やレスポンス、さらに乗り心地はそのままに若干引き締められた足回りから得られる走りが、スポーツカーそのものと言わしめる実力を生み出している。 また万能タイプとしてオススメは、ディーゼルと言いたいところだが同じくガソリンの「35t」。回転振動がとても少ないエンジンの仕上がりと、高剛性ボディとの相性が絶妙で乗り味の質が高い。それは快適さ、気持ち良さ、刺激、実用性含めて、費用対効果の良さを得られるもの。Sのあの抜群の刺激の気持ち良さを知らなければ、このモデルを手放しでオススメしたい。 と、ガソリンモデル推しが続くが、実質の売れ筋グレードとなるディーゼルがダメなわけでは無い。旋回性能や走行安定性は高いし、そこにディーゼル特有の力が湧き上がってくるようなトルクが加わることで、走りやすいし速さもある。さらにディーゼルの回転振動もボディ剛性が高いことで共振せずにすぐに収まる。 という風に基本の完成度はとても良いのだが、一点、30~60km/h前後の日本の交通環境で最も使う領域でのシフトパターンが合っていないのが気になる。極低回転を積極的に使うのは良いのだが、少し加速したい時などあまりに回転が低く、さすがのディーゼルでも力不足。素直に加速せず、キックダウンして回転が上がるのを待たねばならない。当然シフトショックなどストレスもある。他国の使用環境ではあまり使わない速度域なのかもしれないが、もう少し日本の交通環境を考えた味付けも考慮してもらいたい。逆に言えば、そうした速度域をあまり使わない高速道路や幹線道路を多用する方なら、燃費にも優れるし選択肢になる。なにはともあれ、完成度の高いSUVが登場した。 スペック例【 ジャガー Fペイス 20d ピュア】 【 ジャガー Fペイス 35t Rスポーツ】 |
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