福岡~東京を無給油で!?ゴルフGTEに続く、フォルクスワーゲンのPHEVモデル第2弾が「パサートGTE/パサートGTEヴァリアント」。「GTI」のレッドに対して、ブルーをイメージカラーとして内外装を演出したフラッグシップモデルだ。 今回はワゴンのヴァリアントとともに、福岡⇒東京間の約1100キロを走った。VW広報の事前資料によれば、EV航続距離51.7キロ、ハイブリッドモード燃費21.4km/L、そして50Lの燃料タンクを持つパサートGTEは、計算上は約1121キロを無給油で走りきれるらしい。 もちろん、これはあくまでも机上の計算。そもそも男2人の真夏のロングドライブにエアコン無しは生き地獄だし、2泊3日分の荷物とカメラ機材も積んでいるし、ダラダラ走るのもつまらない。たとえ我慢比べのようなエコランで好燃費を出したとしても、実際には何の参考にもならない(せっかくなら回り道してでもご当地グルメを味わいたい)。 というわけで、至極真っ当に聞こえる正論を振りかざしつつ、燃費に関してほぼノーマークでドライブした。重きを置いたのは、PHEVと長く一緒に過ごすことで得られる“実感”だ。 一方で、気にしないつもりでも気になるのが実燃費。後日、まったくの別ルートから帰京した他媒体にも聞いてみたところ、2媒体の実燃費(メーター表示)を単純にならすと、16.8km/Lほどだった。 気分はやや盛り上がらないものの…福岡記者クラブを出発点に、大阪を目指してパサートGTEヴァリアントのエンジンに火を入れる。……当然だが、エンジンに火は入らず、電気系やモーターなどが澄ました感じで目覚めるだけ。パサートGTEには、EV走行の「E」と高効率の「ハイブリッド」、そしてハイパワーの「GTE」という3種の走行モードが用意されていて、スタート時のデフォルトは「Eモード」。気分はやや盛り上がらないものの、PHEVとしては極めて正しい。 走り出しは実にスムーズ。妙なもたつき感もなく、330Nmの力強いモータートルクによって滑るように進んでいく。当然ながら音も静かで、耳には街の喧騒とタイヤの音だけが入ってくるイメージだ。 今回、福岡記者クラブが出発点になった理由は単純で、6月のパサートGTE発売以降、VW広報は各地の記者クラブ向けにPHEVの布教ツアーを行っていて、福岡が豊田・大阪・広島と続いたツアーの最終地点だったから。ちなみに、PHEVへの関心や反応が強かった順に並べるとしたら、豊田・福岡・大阪・広島という印象だったそう。 人々の気質やクルマへのスタンスによる違いもあるだろうが、bty読者なら、なんとなくピンとくるのではないだろうか。そう、もっとも熱かった豊田はプリウスPHVの発売を控えるトヨタ、もっとも冷めていた広島はディーゼル推しのマツダの城下町という点も少なからず影響しているのだろう。 市街地においては常に“ピュアEV”パサートGTEは、200Vの家庭用電源を使った約4時間のフル充電で、最長51.7kmのEV走行ができる。今回はフル充電からスタートしたため、お目当ての「天ぷら ひらお」を経由した高速ICまでの道程はもちろん、高速に乗ってからも30キロほどEV状態をキープ。最高速度130km/hまでEV走行できるから、日本の速度域は完全にカバーしている。 実は今回、福岡⇒大阪(1泊)⇒東京のルート上、そのすべての市街地において、パサートGTEは“ピュアEV”と化していた。EVやPHEVを所有している方にとっては当たり前すぎて、もはや感動することもないと想像するが、普段ガソリン車に乗っているレポーターとしては、ゼロエミッションの魅力、清清しさを改めて実感する時間だった。 深夜に東京に着いたとき、閑静な住宅街へカメラマンを送り届ける際にも気を回さずに済んだし、静粛性が高いことは疲れの少なさにもつながったはず。 平日(市街地)はピュアEVとして使い、休日(高速道路)はハイブリッドとして遠出を楽しむ。PHEVを所有する歓びのひとつを疑似体験することになった。 「GTEモード」の走りはアシッド・ジャズが似合う高速道路を走り続けていると、気づかない間に「ハイブリッドモード」に切り替わっていた。ハイブリッドモードは、減速・制動時にリチウムイオンバッテリーへとエネルギーを回生しつつ(バッテリーの目盛り半分ぐらいを目標に充電しているようだ)、1.4Lのターボエンジン(156ps/250Nm)と電気モーター(116ps/330Nm)のオイシイ部分を効率よく使うモードだ。 エンジン単体、モーター単体、合流加速時などにはエンジン+モーター、アクセルオフではエンジンから駆動系を切り離して燃費を稼ぐコースティングに入る。常になるべく効率のいいところを使って走ろうとしていることが、デジタルメーター内などに表示されるエネルギーフローで視覚的に分かる。表示上は実にせわしない動きなのだが、もちろんドライバーはせわしなさを体感することなく落ち着いて運転できる。 走りのハイライトは、やはり「GTEモード」だ。ハイブリッドモードでは意思通りに加速せずにもどかしい場面もあったが、GTEモードでそれは皆無。システムのトータルパワーは218psで加速は過激というほどではないものの、アクセルレスポンスやシフトプログラムなどがスポーティな性格に変わり、ステアリングの手応えも増して、グッと走りを楽しめる。 まさに「GT」としての本性をあらわにする瞬間。「Eモード」がクラシックなら、「GTEモード」はアシッド・ジャズが似合いそうなノリノリの走りになる。さらに試乗車はオプションのDCC(アダプティブシャシーコントロール)を搭載していたため、足回りも引き締まってスポーティ感がさらに強まった。 様々なモードを手軽に使い分けてこそボディ剛性の高さをベースに、走りの随所で良さを感じるパサートGTEだが、細かい不満もある。 「E」や「GTE」モードへの切り替えスイッチが、左ハンドル仕様の名残でシフトレバーの左側にあるため、とくに走行中は使いにくいのだ。慣れればブラインドタッチでも操作できるとはいえ、500万円超から600万円に届くような高級車と考えると、文句のひとつも言いたくなる。 そして、それ以上に使いにくいのが、バッテリーへの充電を優先する「バッテリーチャージモード」への切り替え。こちらはスイッチさえ無く、わざわざ中央のインフォテイメントシステムの画面から呼び出して切り替え操作する必要がある。 「そんなもん操作しないでクルマにお任せでいいじゃん」と思う方もいるかもしれないが、シチュエーションやルートに合わせて自分で考え、様々なモードを使い分けてこそPHEVの楽しさを深く味わえると思う。 “ほぼほぼ自動運転”の領域に今回は1000キロを超えるロングドライブだったので、安全運転支援システムのありがたみを拝みたくなるぐらいに感じた。 パサートGTEではグレードを問わず、全車速追従機能付きのACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)や渋滞時の追従をサポートするトラフィック・アシスト、レーンキープ・アシストなどが標準装備される。 ACCで先行車を追従しているときの減速ならびに停止までの制御は巧みだ。加速は他メーカーのACCも同様だが、“先読み”まではできない。それゆえ、先行車が大きく減速し再び加速するケースでは、どうしてもワンテンポ遅れて加速することになる。そこに空いた車間に他のクルマが入りこむこともあるが、目くじらを立てるほどのことでもないだろう。 意外に積極的だったのが、レーンキープ・アシストのステアリングへの干渉だ。とはいえ、強引に車線に引き戻されるようなヒヤッと感は無く、あくまでも優しくエスコートされているような感覚だ。 また、VWは声高に主張していないものの、ACC+レーンキープ・アシストで高速道路を走っている限り、パサートGTEは“ほぼほぼ自動運転”の領域に入っている。もちろんステアリングには手を添え、周囲のクルマや流れに気を配る必要はあるが、フツーに運転している時とは疲れ具合がまったく違う。ロングドライブの頼れる味方だ。 パサートGTEにはその他にも、プリクラッシュブレーキをはじめ、レーンチェンジ時の後方死角検知システム、リアビューカメラ、後退時・衝突軽減ブレーキなど、VWの安全運転支援システムが標準で“オールイン”されている。 乗れば乗るほど旨みがにじみ出る充電設備が無いマンション住まいのレポーターにとって、PHEVはこれまで超高級スポーツカーなどと同じく、まったくの購入検討外だった。だが、今回のロングドライブで、PHEVへの意識が変わった。高級スルメのように噛めば噛むほど、乗れば乗るほど旨みがにじみ出てくるからだ。 惜しむらくは、やはり急速充電に対応していない点だろう。確かに欧州と日本では充電方式の規格が異なること、車両価格アップにつながること、PHEVに急速充電は不要という欧州流の考えなど、越えなければならない障壁は多々ある。頭ではそれを分かっていても、福岡⇒東京間の高速SAなどで急速充電器を見かけるたびに、「これが使えればな~」と思ったのは一度や二度ではない。 家族3人+ワンコ、夏はサーフィンや草野球、冬はスノーボードや温泉へと動き回るレポーターにとって、充電問題を除けば、パサートGTEは間違いなく最良の選択肢のひとつになる。自宅や職場などで200V電源を用意できる方々が、正直に言ってうらやましい。選択肢といえば、ディーゼル仕様のパサートも、来春の日本導入を目指して準備が進められている。 ガソリン、ハイブリッド、ディーゼル、EV、PHEV、FCVなど、これだけ様々なパワートレーンが揃ったことは過去に無い。自分のライフスタイルにマッチするクルマが選びやすいという意味で、今はクルマ好きにとって、かなり幸せな時代なのかもしれない。 スペック例【パサート GTE ヴァリアント】 ※上級グレードの「アドバンス」は、タイヤサイズ=前後235/45R18、価格=599万9000円 |
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