イタリア車は故障が怖い?イタリア車に関心を寄せながらも、「買ったら苦労しそうだからなぁ」なんて理由で敬遠している人は少なくないはずだ。筋金入りのマニアにしてみれば、故障を気にして好きなクルマを諦めるなんてナンセンスだ、ということになるのだろうが、僕に言わせればそういう人たちこそ変わり者であって、購入の際、故障を気にするのは当たり前のことである。 けれど幸いなことに、最近のイタリア車はフィアットからフェラーリに至るまで、すべからく品質が高まってきている。ひと昔前のように故障前提で付き合う必要はもうない。となると俄然光ってくるのがクルマそのものの魅力だ。 2014年に創立100周年を迎えたマセラティは、とてもイタリアらしいブランドだ。貴族的な雰囲気という面に注目すれば、フェラーリ以上かもしれない。過去には苦しい時代もあったが、98年にフェラーリのコントロール下に入ってからのマセラティは、「アルファロメオよりもスポーティーで、フェラーリよりもラグジュアリーなクルマを作るハイブランド」という絶妙な居場所を獲得している。 当時フェラーリを率いていたモンテゼモロは、マセラティを「イタリアのジャガーにする」と漏らしていたというが、美しくて速くてエレガントというキャラクターは、まさにジャガーとオーバーラップする。ただしそれを実現するセンスと手法はあくまでイタリア流である。 品位あるワルっぽさと色気、そして……今回試乗した6世代目のクアトロポルテは、2013年に登場した大型セダンだ。大型セダンというと、まず浮かんでくるのは、メルセデス・ベンツ SクラスやBMW 7シリーズだろう。そんななかにあって、クアトロポルテのキャラクターは異質である。 クアトロポルテ(イタリア語で4ドア)はその名の通り4枚のドアをもつセダンだが、僕がもつクアトロポルテのイメージは、エレガントな高性能スポーツカーであり、また夜の社交の場を華やかに彩るラグジュアリークーペである。 全長5270mm、全幅1950mm、ホイールベース3170mmという堂々たるサイズの持ち主ではあるものの、それが威圧感などには結びつかず、華やかさばかりを浮かび上がらせている。マセラティがこのクルマで表現したかったのは、品位あるワルっぽさと色気、そしてスポーティネスだ。 かつてと異なるインテリアの趣き華麗なエクステリアに対して、レザーとウッド、クロームとアルミとプラスティックで仕上げられたインテリアには、少し物足りなさがある。イタリアの高級車、とりわけマセラティともなると、どうしても「匠の技」をたっぷり使った手工芸品的インテリアを期待してしまうが、そのあたりがちょっと物足りない。どこか無国籍風な雰囲気だし、クロームの艶の深みやレザーの手触り、ウッドパネルの美しさにも特段驚かされることはない。むしろ、かつてのマセラティを知る者にとっては、ATセレクターやナビゲーション周りのプラスティッキーさがどうしても鼻についてしまう。 これはおそらく、後述する「ブランド改革」と関係しているのだと思う。よくいえば個性的、悪くいえば独善的なクルマ作りをしている限り、販売台数の飛躍的な増大は望めないという判断の下、より多くの人に好まれる常識的なテイストを与えてきたのではないか、ということだ。 たとえば、かつてのマセラティのレザーは抜群の手触りと引き替えに耐久性に問題を抱えていた。ウッドパネルもそう。長く使っていないので断言はできないが、見た目や手触りから想像するに、新型クアトロポルテのレザーとウッドは、特別な手入れをしなくても長期間にわたって風合いを保つようつくられているはずだ。 デカさを感じさせないソリッドさクアトロポルテには最高出力530psの3.8L V8ターボを搭載した「クアトロポルテ GT S」、410psの3L V6ターボを搭載した「クアトロポルテ S」、4WDの「クアトロポルテ S Q4」の3種類があったが、今回試乗したのは新たに加わったエントリーグレードの「クアトロポルテ」。エンジンはSと同じ3L V6ターボだが、最高出力は330psとなる。1175万円という価格に対し「安い」、と書くのにはためらいを感じるものの、Sが1371万円、GT Sが1834万円することを考えると、相対的に安いのは間違いない。 クアトロポルテはかなりデカくて重いクルマだ。しかし、走り出すとそれをまったく感じさせない。タイトなS字の切り返しでもノーズはヒョイッと向きを変え、揺り戻しは一切なし。ワインディングロードでの身のこなしはまさにスポーツカー的だ。かつてのクアトロポルテのようなトランスアクスルではないが、エンジンをフロントミッドに置くことで実現した50:50という理想的な前後重量配分が、こういった特性を後押ししている。BMW 7シリーズも50:50だが、クアトロポルテの場合、味付けの段階でよりソリッドな身のこなしを強く意識している。 その反面、荒れた路面では足がちょっと突っ張り気味で、尖った段差を通過したときなどはビシッという直接的なショックを伝えてくる。とはいえ決して不快な乗り心地というわけではなく、こうしたソリッドなフットワークを好む人も少なくないだろう。 生粋のスポーツサルーンらしい仕上がりマセラティが設計し、フェラーリの工場で生産される3L V6ターボは、言ってみれば「S」のデチューン版だが、僕としてはなんの不足も感じなかった。むしろ、これだけ走ってくれれば十分すぎると感じた。0-100km/h加速5.6秒、最高速度263km/hというスペックを持ち出せば、きっと納得してもらえるだろう。もちろん、パワーなんてものは追い求めていけばキリがない。330psより410ps、410psより530ps……となりがちだが、少なくとも高速道路を含めた一般道で試乗した限り、330psでも生粋のスポーツサルーンであるクアトロポルテの魅力を存分に味わうことができた。 そんな印象を強めているのが、気持ちのいいサウンドとレスポンス、そしてタイトな味付けのZF社製8速ATだ。かつてのフェラーリ製V8自然吸気と比べると回していったときの麻薬度は低下したものの、3L V6ターボは低中回転域から分厚いトルクを発生するため街中でも本当に扱いやすい。ボディの大きささえ許容してくれるなら、奥様にキーを渡しても苦情を言われることはないだろう。 それでいて、トルコンのスリップを限りなく抑え込んだATは、アクセルペダルに乗せた右足と後輪が直結しているかのようなダイレクト感を味わわせてくれる。そして、いざ回していけば乾いたサウンドをきっちりと奏でてくれるのだ。 拡大路線かつ独自路線見た目、乗り味、走り味。クアトロポルテには、ドイツの高級サルーンとはまったく異なる世界観が構築されている。こんな贅沢で美しいサラブレッドを乗りこなせるのは、ごく一握りの人たちだけである。 しかし、マセラティはいま、その「ごく限られた人」の人数を大きく拡げようとしている。フェラーリのコントロール下に入った98年の生産台数はわずか518台。それが、2012年には6200台、2014年は3万6500台まで増え、2018年には7万5000台を目指している。これほどの規模拡大を目指すということは、生産、販売、マーケティング、ブランディングといったすべての刷新を意味する。 具体的には、北米市場への参入や間もなく登場する同社初のSUV「レヴァンテ」の投入、「ギブリ」に追加されたディーゼルエンジン搭載モデルの用意などである。日本市場においても、現在1500台規模の販売台数を2018年には3000台まで増やすべく販売ネットワークの充実を計画中で、2018年には全国で30店舗を展開する予定だ。 そう考えていくと、マセラティの独自性がますます薄まっていく恐れがあるのでは? という疑問が生じるが、それに対するマセラティ側の説明は明確だ。「われわれは今後もイタリア発のプレミアムラグジュアリーブランドとして独自路線を貫いていきます。SUVは出しますが、ギブリ以下のモデルを出すつもりはありません。BMWは年間190万台ですが、我々の目標は増えたとはいえわずか7万5000台。依然として少量生産の尖ったブランドであることに変わりはない。そこがマセラティの強みですし、ドイツ勢に対するアドバンテージであるとも考えています。」 マセラティの進撃はいま始まったばかりだ。 スペック【 クアトロポルテ 】 |
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