ドライバーがクルマに主役の座を譲るとき携帯電話に例えるなら、ガラケーからスマホへの転換の始まり。そんな表現を使いたくなる劇的な変化と進化を遂げたのが新型Eクラスだ。そこには自動車という乗り物を世に送り出したパイオニアとしてのメルセデスの意地と誇りを感じる。 ドライバーが任意に設定した速度で、前走車に合わせて速度や車間距離や走行ラインを自動調整して走るアダプティブクルーズコントロールなどと呼ばれる半自動運転機能はすでにCクラスやSクラスにあったが、新型Eクラスではウィンカーを出すと自動で車線を変えてくれる機能が加わった。言葉ではたったこれだけのことで、ソフトウェアのアップグレード程度にしか思えなかったのだが、体験するとその世界は全く違った。 感覚論なので個人差はあるだろうが、自動運転の前哨戦とも呼べる半自動運転の世界は、あくまでもドライバーが主役でありそれをクルマがサポートしてくれる感覚を伴っていた。しかし、新型Eクラスではとうとうその感覚すら崩壊し、半自動の世界に違いはないが、クルマが自律して走ろうとするのをドライバーが下支えしているような感覚へと進化している。主客が入れ替わったのだ。 携帯電話で言えば、ガラケーからスマホになって、使いこなしの幅が一気に広がった世界にも似ている。次のページから新しい自動運転の世界をさらに掘り下げていこう。 周囲の動きを予測するセンシング能力走り始めは強い違和感や抵抗感、使い辛さや不信感でいっぱいだ。ウィンカーを出し、自動で車線変更するのはすぐ確認できたが、クルマが安全を確認しているのかいまひとつ信頼できない。自分で操作したほうが楽だし早いしストレスがなかった。 しかし、横に他のクルマがいる時は当然として、たとえ車線変更するスペースがあっても後方から速いクルマが近づいてくる時はウィンカーを操作しても車線変更がキャンセルされるなど、システムの状況判断の正確さを確認するにつれて世界感は変わってきた。最終的には信頼して、車線を変えたいときに自然にウィンカーで操作するようにさえなった。ストレスなど皆無。将来、音声認識と連動すれば「右!」そんなひと言で車線変更が安全かつスムーズに完了する世界を容易に想像出来る。 驚くべきはクルマの周辺を精度高くセンシングする能力だ。前方200m、後方80mの範囲の状況を読み取り、ドライバーがウィンカーを出した際に、これから車線変更する仮想走行ラインに何も干渉物がなければ実行する。そこには人間の状況認識判断と同様に、周囲の動きを先読みする要素も入っているのが凄い。 例えば、横からのクルマの飛び出しに対する自動ブレーキ機能が新型Eクラスには追加されているのだが「飛び出してきたらブレーキ!」という単純なロジックではなく、「飛び出してきたクルマが接触するのか、ギリギリで自車の鼻先を抜けていくのか?」を、対象物の先の動きまで読み取ってブレーキ制御を行う。 そのため新型Eクラスでは、全ての物体の存在は当然として、その動き(加速度)までセンシングしている。だからこそ、横を走るクルマをわずか約5cm程度の距離で回避できるし、今後もさまざまなシーンで車がどう対応するのか、そのバリエーションが広がっていくと想像できる。渋滞で止まった最後尾の車両に対して時速100km(※路面状況などで変化するが)でもぶつからない自動ブレーキはそれ自体凄いが、突然制御するのではなく、まず警告してその後に緩やかなブレーキ制御を挟むなど、ドライバーに危険を知らせる段階制御が洗練されている。ハンドルをドライバーが握っていないと判断した場合、最後はドライバーの身体的トラブルと判断して徐々に速度を落としてハザードを出し、停止後には緊急連絡まで入れるなど、その中身に脱帽してしまう。 新開発のエアサスペンション基本性能にも抜かりはない。走り始めた瞬間、乗り心地の良さに驚かされる。価格的なハードルもあって、読み取った路面情報をもとに起伏に合わせて足回りを動かして快適性を高めるSクラスのような機構は使っていない。しかし、使っているのでは? と思えるほど乗り心地が良い。 その要になるのが新開発のマルチチャンバーエアサスペンション(OP設定)で、とても柔らかいのにコシがあるという不思議なものだ。そもそもエアサスの欠点は高速走行時に締まりのないフワフワ感が出ること。そこで新型Eクラスはリアに3つ、フロントに2つの容量の異なる風船をもたせて、動き出しのしなやかさと動き出してからのしっかり感を両立しているのだ。 風船にはバルブがあり、それぞれ基本の硬さを調整できる。このエアスプリングに、伸び縮み両側の減衰力を別々に調整可能な電子制御ダンパーを付け、4つの足回りを最適にコントロールしている。ちなみに、開発段階ではフロントにもリアと同様に3つの風船を使っていたが、結果としてフロントは2つが最適と判断されたのだそうだ。風船の容量や空気圧に黄金比率があるらしく、その数値は断固として教えてくれなかった。メルセデスは絶対的な自信を持っていて、今後は他モデルにも展開するという。 ガソリンのE400とディーゼルのE220dに試乗土台となるボディはアルミダイキャストのフロントサスタワーを採用するなど、従来比で部分剛性3倍、全体のねじれ剛性は2割ほど強化しながら、50kgも軽量化されている。サーキットドライブを十分過ぎるシッカリ感でこなせる原動力になっている。 ちなみに今回のサーキット試乗モデルはV6直噴ターボエンジンを搭載した「E400 4マチック」。エアサスではない素の足回りだったが、電子制御ダンパーがしなやかな動きをもたらし安定したグリップを確保すると共に、エンジン音が刺激的な味付けで、スポーツカー並みにエキサイティングな走りが楽しめた。 日本で主力になるはずの新開発された直列4気筒ディーゼルエンジンについても触れておこう。今回はこのエンジンを積んだ「E220d」を主軸に試乗したが、静粛性と振動減衰特性のレベルが高く、ディーゼルを意識せずに日常走行ができた。低回転での力強さに優れる分、高速領域での伸びが甘く感じるが、日本のような低速移動主体の走行環境ではメリットが大きいだろう。 ピストンには従来のアルミではなく熱膨張が少ないスチールを使用し、シリンダーはライナーレスのコーティング仕様になった。コンパクトに搭載するために、NOxを削減する「尿素還元触媒(尿素SCR)」とディーゼルの黒煙=ススを削減するフィルターの「DPF」を併せ持った特殊触媒を採用(通常は尿素SCRとDPFの両方が必要)。実走行でも排ガスが綺麗で燃費が優れているという。 最も驚いたスマホで駐車する新機能の日本導入は?スムーズな9速トランスミッション、プラグインハイブリッドモデル、84個のLEDを制御するマルチビームLED、側方衝突時に乗員をクルマ内側に移動させてエアバックを展開させるPRE-SAFE インパルス サイド、衝突時の衝撃音による耳への加害性を軽減するPRE-SAFE サウンドなど、触れたい要素はまだまだある。 何はともあれ、Cクラスとどこが違うのか、初対面では新鮮な感覚を抱けなかった最初の印象と打って変わり、新型Eクラスの革新性や世界観は驚きに満ちたものとなった。日本への導入時期やグレード展開などはまだ不確定だが、夏ごろに新型直4ディーゼルエンジンを搭載するE200dや、直列4気筒直噴ターボエンジンを積んだE200が導入され、生産と供給が安定したころからプラグインハイブリッド車などの次なる展開が明らかになるのではないだろうか。 最後に、日本の携帯電話との連携の観点から導入が難しいとされる「リモート・パーキング・パイロット」だが、ハード面での壁を打ち破り1日も早く日本市場に導入されることを切望する。車外からスマホを操って駐車できるこの機能は、個人的には近年最も驚いたアイテム。「運転する」から「操作する」への意識改革が起きる未来には、様々な可能性が広がっているはずだ。 スペック【 E220d 】 【 E200 】 |
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