名門でありながら新興のマクラーレンブランド「マクラーレン」。その名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。 アイルトン・セナのドライブするマクラーレン・ホンダという“F1チーム”かもしれないし、そんなマクラーレン・ホンダが打ち立てた記録16戦15勝を達成した「MP4/4」という“F1マシン”かもしれない。はたまた、そんなMP4/4を設計した鬼才ゴードン・マーレイがデザインした“ロードゴーイングカー”である「マクラーレンF1」かもしれない 少なくとも、クルマ好きにとってその名は特別な響きであることは間違いないだろう。スピード、テクノロジー、イノベーション…心沸き立つエッジーなイメージがそこにはあるはずだ。 マクラーレンは、2010年に「マクラーレン・オートモーティブ」を設立した。その前身は、前述のマクラーレンF1を製作した「マクラーレン・カーズ」であり、自身の名を冠したロードゴーイングカーを作ることは、創業者であるブルース・マクラーレンの悲願でもあった。 名門コンストラクターでもあるマクラーレンは、F1モナコGP、インディ500、ル・マン24時間を制覇した史上唯一のトリプルクラウン達成チームであり、現在もF1ではチームランキング1位、ドライバーランキングで1、2位につけ、さらにはインディカーシリーズに挑戦しながら、2027年に世界耐久選手権(WEC)に復帰するなど、野心的にそのビジネスを拡大している。 つまり、名門レーシングコンストラクターでありながら新興自動車メーカーという、スーパーカーブランドとしては新しくありながらも歴史と伝統を有する稀有な立ち位置なのだ。 ◎あわせて読みたい: 意外と乗り心地がいい「750S」ロードゴーイングカーを製造するマクラーレン・オートモーティブの現在のラインアップは、アルティメットシリーズ、スーパーカーシリーズ、GTシリーズの3つに大別される。今回は、スーパーカーシリーズの最新にして頂点ある「750S」をドライブする機会に恵まれた。 名は体を表す通り、先代「720S」から30馬力アップした750馬力を発揮する4.0L V8ツインターボエンジン「M840T」をミッドに搭載し、こちらも720Sより30kg軽量化されたボディはわずか1277kg(乾燥重量)。ライバルと比べても200kg近く軽量に仕上がっているそうだ。 ハイブリッドスーパーカーである「アルトゥーラ」もラインアップするマクラーレンだが、ライバルが続々とハイブリッド化され重くなる中、軽量なカーボン製モノコック「モノケージII」にピュアエンジンを組み合わせた750Sのパッケージは、無駄な装飾を廃したスパルタンなコックピットも相まって、イギリスの名門レース屋の矜持を感じる。 六本木ヒルズの駐車場で750Sを受け取り公道に出る。走り出してすぐに渋滞に引っかかり、30℃を超える酷暑の中、750馬力のスーパーカーで渋滞をノロノロと走るのは気持ちがいいものではないが、2ペダルの7速デュアルクラッチトランスミッションなので、特段気を遣うことなく走らせることができた。 そして、アダプティブダンパーの設定で「コンフォート」モードを選んでいる限り、乗り心地が拍子抜けするほど快適なのにも驚く。もちろん後方ではエンジンが唸りを上げ、その溢れ出る力を解放したくてウズウズしているのだが、六本木通りの傷んだ路面を見事な足捌きで駆け抜けていく。 ◎あわせて読みたい: もっとコンパクトなスポーツカーを扱っている感覚首都高に上がり、周囲の流れに合わせて巡航すると、750Sがいかに空力に気を遣って作られているのかがわかる。 空気の流れが作り出したかのような有機的なフォルムのボディは、風の抵抗をほとんど感じず滑空するかのように走っていくのだ。そして速度を上げれば上げるほど、路面に車体が張り付いていく。リアウィングには「エアロブレーキ」だけでなく、F1由来の「DRS(ドラッグ・リダクション・システム)」も備わっている。 ついに前が開けた。ニヤリとしながら、メーター脇のトグルスイッチでアダプティブダンパーとトラスミッションの設定を「スポーツ」モードに切り替え、右足に力をこめる。 もちろん全開には程遠いアクセル開度ながら、750Sは「待ちくたびれた」と言わんばかりに唸りをあげ加速体制に入る。精巧に組み上げられたM840Tの吐き出すパワーが路面を蹴り、ハンドルを切り込んでいけば、寸分の遅れなくノーズがインをかすめていく。 ブレーキペダルを踏めば、パパイヤカラーのマクラーレンオレンジのキャリパーがカーボンセラミックのディスクを挟み込み速度を殺す。ただ、そのタッチに癖はなく(やや踏力は必要だが)非常にコントロール性に優れているので、思い通りの減速力を引き出すことができる。 全幅は2mを超えるが、五感で感じるフィーリングはもっとコンパクトなスポーツカーを扱っているように錯覚するのは、軽量ボディの賜物だろう。エンジンもモーターのように滑らかに回転を上げ、ややガツンとした衝撃を伴いリズムよくシフトアップしていく。4000万円を超える文字どおりスーパーなマシンだが、そこに距離感は感じず、すぐにクルマと心が一つになったスポーツドライビングの真髄を味わうことができた。 ◎あわせて読みたい: 走ることに特化した生粋のピュアスポーツ今回の試乗は、関東近郊を4時間程度、距離にして250kmほどしか乗ることができなかったので、そのポテンシャルを一端しか味わうことはできなかった。 750Sのポテンシャルを余すことなく味わうには、富士スピードウェイのようなサーキットに持ち込むしかないが、それは同時に、相応の速度域に応じたテクニックが求められる。 しかし、今回の試乗でわかったのは、750Sが極めてピュアにドライビングを突き詰めたモデルだということだ。フェラーリのような甘美さでもなければ、ランボルギーニのような狂気さとも違う、無駄を廃し徹底的に走りと向き合った高潔さがそこにはあった。 スーパーカーには人によって色々な定義があるだろうが、750Sは、ラグジュアリーとスポーツが同居したようなスーパーではなく、その走りの性能がスーパーなのだ。なので筆者にとって、とことんドライビングに向き合える750Sは、いい意味で純然たる“スポーツカー”であった。 一昔前は、スーパーカー=じゃじゃ馬のように見る風潮もあったが、日常での乗り心地の良さは安心感につながるし、ドライバビリティ優れた750Sに恐怖心は抱かない。高速域でビシッと安定する強烈なダウンフォースを得るための独自のデザインにだって意味がある。 レースの世界では、扱いやすさこそ速さに直結する。そういう意味で、やはり750Sは英国の名門レース屋の血が色濃く反映された、走ることに特化した生粋のピュアスポーツだった。 (終わり) ◎あわせて読みたい: |
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