基本骨格から新しい次世代ボルボの登場ほぼ10年ぶりに生まれ変わった新型XC90は、ボルボにとっては単なるフルモデルチェンジという以上の意味を持つモデルと言える。ハードウェアもデザインも、まさにここからボルボの新しいチャプターの幕が開けるのだ。 経営的に、かつてのフォード傘下でなくなったボルボは、技術的にもそこから離れるべく、かねてからハードウェアの刷新を進めてきた。そのうちパワートレインについては、すでに日本にも上陸済みの、直列4気筒2L過給エンジンと8速ATを組み合わせた「Drive-E」として結実している。そして新型XC90では、いよいよ車体も完全に新しい世代へと移行することになる。 新しい基本骨格として採用されたSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)はモジュラー構造を採り、同じ基本コンポーネンツを使いながら長さ、幅、高さを自在に変更して様々なモデルを生み出すことができると謳われる。 斬新な設計とスカンジナビアの匂い熱間成形スチールやボロンスチールの多用により、そのボディは高剛性と軽量化を両立する。XC90で言えば、車両重量は先代より実に125kgも軽い。サスペンションは、フロントが従来のマクファーソンストラットからダブルウィッシュボーンへ。もはや5気筒や6気筒は念頭になく、それだけスペースに余裕が生まれたおかげだ。またインテグラルアクスルと呼ばれるマルチリンクのリアサスペンションも、コイルの代わりに左右に渡された1本の樹脂製リーフスプリングを使うなど、斬新な設計を採る。 もう一点、注目したいのがデザインだ。2012年にデザイン担当副社長に就任した元VWのトーマス・インゲンラートが初めてゼロから描き出したエクステリアは、一見さほど斬新ではない。しかし長いホイールベースに短いフロントオーバーハング、長いボンネットなどが実現した美しいプロポーションが、北欧神話の雷神トールが持つトールハンマーのモチーフを使ったヘッドライトなどをアクセントとしつつ、基本的にはシンプルなディテールと相まってスッキリとした美しさを湛えている。 これぞ、まさにスカンジナビアの匂い。ボルボが描き出すべきフォルムと言えるのではないだろうか。 スワイプやピンチも可能なタッチスクリーンインテリアの変化は、より大胆だ。長らく使われてきたフローティングセンタースタックに代わってダッシュ中央には縦型のタッチスクリーンが埋め込まれている。機能をここに統合することでスイッチ類が大幅に減少し、見た目はスッキリ。LEDメーター、ヘッドアップディスプレイも採用されている。 このタッチスクリーン、使い勝手はよく練られているし、何よりスワイプやピンチイン/アウトなど各種操作に対する反応の良さが好感触だ。操作に迷った際、ホームボタン一発で戻れる辺りも含めて、まさにスマホ感覚。一方で各機能の階層分けなどは、運転しながらの操作への配慮が感じられる。しかも音声入力もあると考えれば、その完成度は初出にして相当なレベルにある。 随所にこだわりが見られるインテリア思わず画面ばかり見てしまうが、周囲を見渡せば、そのクオリティの高さにも感銘を受ける。レザー、ウッド、アルミはすべて本物。サプライヤーと共同でそれぞれのパーツの精度向上を図ることで、従来より格段にハイレベルな仕上げを実現したという。単に整然としているだけではない。シフトノブにクリスタルが使われたり、左右に回すタイプのスタートボタンなど手の触れる部分にダイヤモンドカットが施されていたりと、随所に洒落っ気も見られる。 空間自体も余裕を増している。それが顕著なのが身長170cmの乗員まで対応するようになった3列目シート。実際には177cmの筆者でも、それほど苦もなく座れたほどの広さが確保されている。ちなみに車両サイズは全長が先代より140mm大きい4950mm、全幅は写真のフェンダーエクステンション付きで2008mm、全高が1775mmと、かなり大柄である。 それでも3列目シートと(プラグイン)ハイブリッドを両立しているSUVは、今のところ新型XC90だけ。それが可能になったのは、SPAが最初からそれを見込んで設計してあったからだ。 シャキッとタイトかつ落ち着きのある走り今回、テストできたのはガソリンのT6、ディーゼルのD5、そしてプラグインハイブリッドのT8の3モデル。全車エアサスペンション付きで、興味が募るリーフスプリングの感触は試すことができなかった。 全車に共通して、走りはシャキッとタイトな印象。たとえば操舵に対する応答に遅れが無いから街中でもボディが大柄に感じられず、高速道路の導入路なども微小な切り増しに正確に反応してくれて、とても気持ちが良い。 それでいて決して神経質なわけではなく、こちらが望んだ以上に曲がるとか、そういうこともないのは、やはりボルボ。ワインディングロードに持ち込んでも、攻めて楽しいというほどではないが、しかしこちらの意思を裏切ることなく、思った向きに進んでくれる。速度域が高まるほどに落ち着きが増す高速道路での走りも、とても安心感があった。 好印象のT6、T8は熟成に期待、日常域で光るD5特に好印象だったのはT6。21インチのタイヤ&ホイールを難無く履きこなし、乗り心地も上々だった。20インチのD5の方がむしろゴツゴツ感があったのは、ちょっと解せないところ。T8は200kg近い重量増の影響が乗り心地の面でも挙動の大きさの面でも無視できず、こちらはもう少し煮詰めたいと感じた。 しかしパワートレインとしてはこのT8、興味深い。前輪を2Lターボ+スーパーチャージド・エンジンと電気モーター、リアを電気モーターで駆動するプラグインハイブリッドは、低速域から力強く加速し、一方で必要がない時にはエンジンを停止して燃費を稼いでくれる。まだ制御には粗さがあるが、こちらは本国でもデリバリーはもう少し後とのこと。熟成を楽しみにしたい。 電気モーターが無い以外はT8と同じ、2Lエンジンにターボ+スーパーチャージャーという構成となるT6は、T8に較べると低速域が物足りなく思えるが、トップエンドまで回せばかなりパワフル。スムーズさも全域で際立っていた。 そして日常域で光るのがD5。小型のバリアブルジオメトリータービンと大型タービンを組み合わせたツインターボエンジンは、低回転域からリニアに加速し、しかもそのまま上まですっきり回る特性で、ディーゼル特有の振動は多少気になるものの、それと十分にトレードオフにできる魅力を感じた。 実はボルボ、今年後半にはいよいよ日本にディーゼルエンジン車を導入する。XC90も導入の時には当然、設定を念頭に置いているというから楽しみにしたい。 夜間の検知能力向上や右直事故回避機能も追加ボルボ自慢の安全性にも、更に磨きがかけられている。インテリセーフと総称される先進安全装備群は、昼夜問わず歩行者と自転車を検知できるようになり、交差点でのいわゆる右直事故を回避する機能が追加された自動ブレーキや、路外逸脱の際に乗員を保護するラン・オフ・ロードプロテクションといった新しい制御が加わった。 もちろん、単に装備が増えればいいというものではなく、また各国や地域の安全基準を満たせば済むというわけでもない。ボルボはこのXC90について、2万時間以上にも及ぶコンピューターでの衝突シミュレーションを行ない、また実車も60台以上を使って衝突実験を行なったという。また、3列目シート使用時に気になる後突の際の安全性も、55mph(約90km/h)までテスト済みだというから抜かりはない。 プレミアムSUVの勢力図を書き換える可能性も正直に言うと、今回用意されていた写真だけでは新型XC90、それほど期待を盛り上げることにはならないのではと危惧していたりもする。しかしながら実車は、一見あっさりとしているものの、それだけに見れば見るほど美しさがじわじわと感じられてくる仕上がりとなっている。そして中身についても、本当はまだまだ語りたい要素が山ほどあるというのが実際のところだ。 最近のボルボは確実に実力を高め、存在感を際立たせてきているが、新型XC90はその雰囲気を更に後押しするものになるだろう。さすがにこれだけ中身が充実しているだけに、価格はやや上がってしまうようだが、数多あるプレミアムSUV勢の中でも、これなら十分に良い戦いができるはず。いや、あるいはその勢力図を書き換えることだって十分に現実的と言える。 しかも、これを言うのは気が早過ぎるかもしれないが、その先にはこのSPAを使ったニューモデルが、いくつも控えているのだ。今後のこのブランド、大いに期待していいのではないだろうか。 スペック例【 XC90 D5 AWD 】 |
GMT+9, 2025-4-30 20:40 , Processed in 0.083692 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .