911GT3ルックのケイマンが登場した理由ポルシェモータースポーツが開発に携わるポルシェの“GTx”モデルは、これまで911GT3に象徴されるように、911だけに設定されてきた。話は単純で、モータースポーツにはミッドシップモデルは使われず、基本的に911だけがその任に就いていたからだ。 ケイマンGT4の登場は、まさにその不文律を打ち破るものと言うことができる。とは言え、これが即座にミッドシップモデルによるモータースポーツへの参加を意味するわけではない。狙いはユーザーの7割がサーキット走行を楽しんでいるという“GTx”モデルの世界を拡げることにある。 その出で立ちは、911GT3に倣ってとても好戦的だ。フロントマスクは大きな3つの開口部と、前方に鋭く突き出したリップスポイラー、フロントフード前方のエアアウトレットにより、アグレッシヴさが格段に増しており、全長もケイマンGTSより34mm大きくなっている。 20インチホイールや大型スポイラーを装備サイドビューを印象づけるのは18mm低い車高と、センターロックではないもののGT3とほぼ同意匠の20インチホイール、そしてエンジンにより多くの空気を導くための大型サイドブレード。更に車体後方に回れば、固定式の大型リアスポイラーや、下面がディフューザー形状とされたリアバンパーなど、まさに実戦向けの装備が凄みを増している。 インテリアは、ケイマンGTSのそれより10mm小さい360mm径のステアリングホイール、古くからのファンをニヤリとさせるに違いないベルトタイプのドアノブ、各部にあしらわれたアルカンターラによってスポーティに演出。走りを究めたい人のためには、リアのロールケージ、消火器、運転席6点式シートベルトをセットにしたクラブスポーツパッケージも用意される。 トランスミッションは6速MTのみの設定中身の進化も意欲的だ。まずパワートレインは、エンジンにケイマン史上最大の3.8Lフラット6が搭載される。そして、911カレラS譲りの最高出力385ps、最大トルク420Nmを発生するこのエンジンには、何と6速MTだけが組み合わされる。筆者のようにPDKだけになってしまった911GT3に寂しさを覚えていた人にとっては、まさに嬉しいプレゼントと言えるだろう。こちらは当然、内部が強化され0-100km/h加速は4.4秒、最高速は295km/hとなる。 それ以上に大きく手が入れられているのがシャシーだ。まずフロントサスペンションは多くの部品を911GT3から流用しており、性能を向上させているのみならず、キャンバー角の調整などを可能にしている。リアサスペンションは、911のマルチリンクに対してマクファーソンストラットと形式が異なるため部品の流用はされていないが、リンク類は強化されジオメトリーも変更。倒立式ダンパーが使われ、ストラットにはヘルパースプリングも組み込まれている。 レーシングパーツの多くが911GT3譲り911GTレーシングカーのすべてに使われているというコレは、サスペンションが伸び切った状態でも尚、タイヤを地面に押し付けることを可能にする。リアエンジンの911より後輪荷重が軽いケイマンだからこそ、敢えて採用されたのだろう。 面白いのが、電子制御式減衰力可変ダンパーのPASM。その減衰力は、ノーマルモードをニュルブルクリンク北コースに、スポーツモードはより一般的なサーキットに合わせた設定とされているというのだ。とことんユーザーの使い方に沿ったセッティングなのである。 そしてブレーキは、これまた911GT3からの流用で、複合素材を使ったローターは前後とも380mmの大径となる。オプションでセラミック・コンポジット・ブレーキのPCCBも選択することが可能だ。 低速域ではスパルタンな雰囲気だが…試乗の舞台はポルトガル南部のファーロ。キーを受け取り、まずは一般道へと走り出す。前方に突き出したフロントスポイラーと低い車高は街中では少々気を遣うし、遮音材が省かれているおかげでエンジンや補機類からの音も直接的に耳に届く。但し、ミッドシップのケイマンはトランスミッションがエンジンの後方にあるため、911GT3のようにその動作音がやたら聞こえてくることはない。 低速域ではゴツゴツ感があり、また身体を揺さぶりがちの乗り心地ではあるが、思ったほどはハードではない。むしろ個人的にはちょろちょろと進路が乱されがちなことの方が気になった。しかも高速道路に入りペースが上がっていくにつれて、驚くほどフラットになってくる。おそらくダウンフォースが効いてきて、クルマが押さえつけられているのだ。 ケイマンの中でもベストのシフトフィール3.8Lエンジンは実用域から力感にあふれている。ダイナミックエンジンマウントがエンジンの前後左右への振れを抑えてくれること、シフトレバーの長さが切り詰められていること、更にはスポーツモードではシフトダウン時の自動ブリッピングが働くことなどから、MTの操作感はケイマンの中でもベストと言える切れ味だし、右足の動きに即応してタイヤが転がり出す感じが強く、とても運転しやすいし、クルマとの強い一体感を味わうことができる。 強いて言えばエンジンが、トップエンドで911GT3のようにもうひと伸びしてくれれば言うことナシなのだが、それでも7800rpmまできっちり使い切れるし、速さにだって不満はまったく無い。ダイレクトに響くエンジン音を聞きながら、そのアクセルペダルを踏み込むのは、とても刺激的だ。 素のケイマンにはない高度なコントロール性ワインディングロードでのケイマンGT4は、ケイマン シリーズの他のモデルに較べると若干、軽快な印象は薄い。リアがどっしりと落ち着いているせいだろう。但しアンダーステアというわけではなく、ステアリングを切り込めば思った通りに曲がっていく。何よりまずはスタビリティという考えである。 その真価がフルに発揮されるのは、やはりサーキットだ。とにかく安心感は抜群。911GT3と同銘柄のミシュラン パイロットスポーツ カップ2のグリップ力は強烈そのものだし、リアが出始めてからもスライドはあくまで漸進的。滑りながらも、クルマがしっかり前に進んでいく。リアサスペンションに施された改良が、確実に横剛性を高め、接地性も格段に向上させて、素のケイマンではちょっと味わえない高次元のコントロール性を満喫させてくれるのである。 1064万円のプライスタグはバーゲン!3速から4速に上げてまだ踏んでいくような高速コーナーを、ほぼステアリングを中立まで戻した“ゼロカウンター”状態で抜けるなんて走りも、このケイマンGT4なら挑む気になる。もちろんシビレる瞬間ではあるのだが、それ以上に快感! なのだ。 ポルシェの“GTx”モデルに期待する通りの走りの実力、懐深さ、そして刺激性が、このケイマンGT4にはしっかり宿っている。速さを徹底的に突き詰めた911GT3よりも、コントロールの楽しみが強調されている、とも言えるかもしれない。MTも、よりドライバーに委ねられる範囲が大きいという意味で、そんなキャラクターを強調している。これ以上速くなったら、PDKの方が欲しくなりそうなギリギリのところに、このクルマは居る。 そんなケイマンGT4、何とプライスタグに掲げられているのは破格の1064万円である。サーキットを本格的に攻めるならPCCBは欲しいが、それでもまだバーゲンプライスであることに違いはない。この価格もまたフレンドリーな存在感に繋がっている。 実際、世界中でオーダーが殺到しているそうだが、それも当然だろう。これからは世界中のサーキットで、このケイマンGT4と遭遇する機会、爆発的に増えることになるはずだ。 スペック【 ケイマン GT4 】 |
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