セダンはFCEVとハイブリッドの2グレード「トヨタ クラウン」のセダンとスポーツがとうとう発売された。同じ車名を冠した4つのボディスタイルのモデルを一度に公開し、時期をずらして発売していくという、国内シェアが圧倒的に大きいメーカーだからこそ可能な規模の、4マスではなくSNSを強く意識した、同時におそらくコロナ禍や紛争などによる部品供給の不安定さなどにも対応したお披露目の真っ最中であるクラウンシリーズ。 昨年の「クラウン(クロスオーバー)」発売から1年後のこの度、「クラウン(セダン)」と「クラウン(スポーツ)」が発売され、クラウン祭りもあとは「クラウン(エステート)」の発売を残すのみとなった。姿かたちはもう散々話題になっているので、走らせた印象をお届けしたい。 >>クラウン(エステート)ってどんなクルマ? 今わかっている情報はこちら まず試乗したのはセダン。ラインアップはシンプルだ。トヨタの燃料電池専用モデルである「ミライ」とプラットフォーム、パワートレーンを共有するFCEVと、縦置きの2.5L直4エンジンを用いたシリーズパラレルハイブリッドの2種。 >>ミライってどんなクルマ? 公式画像や価格&スペック情報はこちら いずれもワングレードで後輪駆動のみ。価格はFCEVが830万円、ハイブリッドが730万円だが、補助金額の大きなFCEVのほうが実質負担額は少ない(諸条件あり)。ただ一定期間後の残価まで考えるとどちらが高い、安い、得、損というのは判断が難しい。 >>クラウン(セダン)のカタログ情報はこちら 実用上十分な加速性能と、特筆すべき快適性最初にFCEVを試した。FCスタックで発電した電力を用い、最高出力182ps、最大トルク300Nmのモーターを駆動する。FCスタック自体が発揮できる最高出力は174psだが、必要な場面ではバッテリーからも電力を供給することで182psが可能となる。 車両重量は2000kg。2トンに対し182ps、300Nmと聞くと動力性能は大したことがないのではないかと想像するかもしれないが、そこは発進時にすでに最大トルクに達しているモーター駆動の特性によって、実用上十分に力強いダッシュが可能だ。 巨大なバッテリーと大出力モーターを組み合わせたラグジュアリーBEVに比べれば明らかに遅いので、脳みそが置いていかれるようなダッシュを求める人はクラウンを検討すべきではない。ただそんな加速が本当に必要かということは考えてみてほしい。 特筆すべきは快適性だ。高剛性ボディと前後マルチリンクのサスペンションがもたらす乗り心地は素晴らしい。全域でソフトで、路面からの入力をそのまま乗員に伝えるのではなく、十分に吸収して角を丸めたうえで伝えてくる。 もっとシャキッとした、ロールが少なくフラットネスを感じさせる挙動を好む人もいるだろうが、セダンははっきりとソフト寄りの特性をもたせ、わかりやすい乗り心地のよさを際立たせていると感じた。後述するスポーツはもっとキビキビとした動きを感じさせた。複数モデルがある強みを活かし、キャラクターを分けたのだろう。 >>クラウン(セダン)のカタログ情報はこちら ソフト&マイルドな乗り心地が、電動パワートレーンの静粛性とスムーズさと組み合わせられることで、FCEVセダンは非常に快適なクルマとして成立している。低速域から豊かなトルクを発するモーターによって、ドライバーが求める勢いの加速を、静かなまま、変速ショックなく実現する。 エンジンがなくても、ロードノイズや風切り音によって、さほど静粛性が高いとはいえないBEVもあるなかで、クラウンは静かなパワートレーンを台無しにしない吸音、遮音、防音対策をボディの各部に施している。そして速度域を問わずロードノイズの低いタイヤを選んでいる。 ハイブリッドは音と振動でFCEVに負けるが…ハイブリッドのセダンに乗り換えた瞬間に感じたのは、こちらを先に試すべきだったということだ。車体から感じる乗り心地のよさはFCEVで感じたのと同じだが、ハイブリッドにはエンジンがある。つまり音と振動がある。 直4エンジンを使ったハイブリッドシステムとしては音と振動の対策がきっちりなされているほうではあると思うが、FCEVになかった要素がやや目立ってしまった。FCEVの直後に乗ったことと、ハイブリッドに乗っていた時間が1時間弱に過ぎないことは忘れてはいけないが、両車を比べてそう感じたのは事実だ。 ハイブリッドのほうはエンジンの最高出力が185ps、最大トルクが225Nm、モーターの最高出力が180ps、最大トルクが300Nm。モーター駆動を基本としながら、動力分割機構によってエンジンが発した力を“いい感じ”に駆動と発電に振り分けるおなじみのシステムは、そのクルマとして発揮できるシステム出力はFCEVとさほど変わらないはず。実際、体感的な加速の力強さはほぼ同じだった。 >>クラウン(セダン)のカタログ情報はこちら このハイブリッドシステムがユニークなのは、システムがつくり出したパワーを4段ATが変速して後輪に伝えることで効率をアップしている点だ。さらにモーター制御によって10段の擬似的な変速が可能となっていて、リズミカルな(わざわざステップ制御を入れている)加速フィーリングを味わえるようになっている。 パドル操作でギアを固定した走行もできる。エンジン、モーター、動力分割機構、機械式AT、電気的ATを統合制御した複雑なパワートレーンなのだ。BEVにせよFCEVにせよ、電気自動車ならそれらが必要ないということでもあるのだが。もちろんドライバーは複雑なシステムを意識する必要はなく、よくできたAT車として乗ればよい。 ハイブリッドでも望み得る最高の快適さが手に入る冒頭でどちらがどうこうという話をしたが、現実的にはFCEVはまだまだエネルギーを充填できる水素ステーションの数が少なく、各ステーションの営業時間も限られ、都市部限定の間口の狭いモデルだ。一方でハイブリッドはこれまで通りガソリン補給で運用できる最も間口の広いモデルといえる。良好な乗り心地に静かさが加わって快適の極致と思えたのはFCEVだが、ハイブリッドでもこの価格で望み得る最高の快適さは手に入る。 長らくセダンこそがクラウンの王道だった。しかしクロスオーバーからスタートしたこの度の新世代クラウンファミリーにあっては、セダンは唯一レイアウトの異なる異質な存在だ。当初の新クラウン計画になかったセダンが、なぜ途中で計画され、追加されたのかについて書かれた記事は多数存在するのでここでは触れない。ともあれ、世間の流行り廃りがどうあれ、セダンでしか応えられないフォーマルな用途の受け皿として、新型のセダンは黒いのを中心に街にあふれるはずだ。 >>クラウン(セダン)のカタログ情報はこちら スポーツはシャキッとした乗り心地でずっと若々しいクラウンスポーツに搭載される2.5L直4ガソリンエンジンはクラウンセダンのハイブリッドに搭載されるものと同じだ。ただ搭載する向きが異なる。こちらはレクサスのSUVやクラウンクロスオーバーなど、他の多くのトヨタのハイブリッドモデル同様、横置きだ。したがってFWDベースのシステムだが、クラウンスポーツにはリアにもモーターが組み込まれ、必要な場面では四輪を駆動する。 エンジンは最高出力186ps、最大トルク221Nm、フロントモーターは同119.6ps、同202Nm、リアモーターは同54.4ps、同121Nm。それらが同時にピークに達することはないので、システム全体の出力は足し算した数値にはならない。走行した印象によればクラウンセダンのハイブリッドと同等か、こちらのほうがやや身軽だ。重量やサイズの影響もあるだろう。 スポーツを名がつくだけあって、乗り心地はセダンよりもダンピングを感じさせ、シャキッとしている。スタイリングだけでなく挙動もクロスオーバーやセダンよりもずっと若々しい。 >>クラウン(スポーツ)のカタログ情報はこちら デュアルブーストハイブリッドが搭載される可能性もある自分のYouTubeチャンネルで「スポーツは40代向け、クロスオーバーが50代向け、セダンが60代向け」と言ったら「年齢層でわけてたけど高年齢でもスポーツ選ぶ人もいるでしょ」とお叱りのコメントをいただいた。もちろん高齢者がスポーツに乗っちゃダメと言うつもりはない。こういう想定で開発されたのだろうと想像しているわけだ。価格は590万円~と510万円~のクロスオーバーよりも高い。 >>クラウン(クロスオーバー)のカタログ情報はこちら クロスオーバーに存在する2.4L直4ターボエンジンと組み合わせたデュアルブーストハイブリッドモデルは、スポーツには設定されない。どちらかというとスポーツにこそふさわしいパワートレーンだと思うのだが。代わりにPHEVモデルが追加されることになっている。こちらは大容量バッテリーと大出力モーターを活かしたパワフルな走りを味わわせてくれるのだろう。 クロスオーバー、セダン、スポーツにそれぞれ異なるパワートレーンを搭載するトヨタのバリエーションの豊かさには舌を巻くが、将来のマイナーチェンジで、現在は選べない組み合わせが実現する可能性が高い。先日トヨタはクラウン専用の販売店「ザ・クラウン」を展開することを発表した。将来トヨタのサブブランドとして半分独立した存在になるのかもしれない。早くもおじさんが乗るクルマの代表格だった頃が懐かしく思えてきた。 >>クラウン(セダン)のカタログ情報はこちら |
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