国産コンパクトの枠を超えているクラスにこだわらず、クラスの壁を破るクルマを、一切の妥協を廃して創りあげました。目的ですか? そりゃもう、デミオを運転するすべてのお客様を笑顔にするためです! そう語ってくれたのは開発責任者である土井歩氏。果たしてデミオは開発の狙い通りのクルマに仕上がっていたのか? 結論から言ってしまおう。新型デミオは、間違いなくこれまでの国産コンパクトの枠を超えている。しかもそれはハードウェアにとどまらず、デザイン、質感、乗り味といった、数字では表せない感性領域にまで及んでいる。デミオの魅力を理解するためには、大前提として従来の国産コンパクトカーとは似て非なるものであるということを認識し、そのうえでつぶさに観察していくことが必要だ。 まずはデザインから見ていこう。スリーサイズは全長×全幅×全高4060×1695×1500mm。全長が4mをわずかに超えているものの、このクラスとしてはまあ標準的なサイズである。しかし、プロポーションの美しさはピカイチだ。秘密は長めにとったフロントフードにある。Aピラー付け根を後退させることによって長いフロントフードを与え、そのうえでフェンダーと連続する大胆な造形を形作っている。Aピラーをどんどん前出ししたワンモーションフォルムが幅を効かせるなか、よりクルマらしい美しさを表現するのが狙いだ。コンパクトカー離れした張りのあるフード形状や、ボディサイドを走る大胆にしてデリケートなプレスライン、ハイライトとシャドーの絶妙なコンビネーション、美しいルーフライン、バランスよくまとまったリアエンドの造形など、すべてが綿密な計算の上に成り立っていることをうかがわせる。 そのうえで、全体を眺めたとき、力強い塊感やエネルギーをグッと貯めた感じが伝わってくるのは、デザイナーが描いた二次元作品に魂を吹き込み、三次元作品へと昇華させていくクレイモデラーの手腕によるところが大きい。決して斬新なデザインではないが、デミオのエクステリアデザインには上質感、緊張感、塊感、スピード感といった様々な要素が複雑に入り交じっていて、それらが見る者のエモーションを刺激する。そして何より嬉しいなと感じたのは、大人の男性にも似合うクルマに仕上がっている点だ。さすがにビジネススーツは似合わないけれど、きれいめなカジュアルウェアを着て過ごすちょっと上質な大人の週末にも、新型デミオは無理なく溶け込んでくれるだろう。こんな素敵なクラスレス感を味わわせてくれるコンパクトカーはいままで日本車にはなかった。 インテリアはまるで高級車クラスのベンチマークを目指したというインテリアもいい出来だ。とくに気に入ったのが、シート、ダッシュボード、ドアトリムにオフホワイトを使ったLパッケージ。とても寛げるし、何よりセンスがいい。ステアリングホイールの触感やインテリアスイッチのレイアウト、操作フィールといった細かい部分の仕上がりも上々だ。僕のなかでのランキングでトップだったフィットのインテリアを鮮やかに抜き去った。アクアやヴィッツやマーチと比べたらまるで高級車である。 ただし、ここまで仕上げてくると、いくつか改善を期待したい部分も目に付いてくる。センターコンソールパネル下端にはアクセサリー端子(USB×2、SDカードスロット、AUX入力、DC電源)を用意しているのだが、ムキ出し感が強すぎて全体の上質感をスポイルしている。実用性を考えればカバーはないほうがいいという判断も理解できないではないが、個人的にはカバーが欲しいし、カバーをしないならもう少し質感を高めるか、あるいは目立ちにくいデザイン処理を施して欲しい。ダッシュボードからドアパネル、同じくダッシュボードから液晶モニター基部につながる部分のシボ合わせももう1段階引き上げたいし、ルーフトリムも不織布ではなくニット地を使って欲しかった。サンバイザーのチケットホルダーが薄手のビニール製で、使っていくうちに伸びてユルユルになりそうな点も気になった。 もちろん、こういった要望は、全体的な仕上がりがそうとう高いレベルに達しているからこそ出てくるもの。135万円スタートのコンパクトカーに対しては贅沢すぎる注文ではある。しかし、クラスのベンチマークを目指すと宣言しているからには、いずれVWポロに並ぶ質感を実現してもらいたい。そしてゆくゆくはオールレザーやアルカンターラを使った上級バージョンもラインナップに加えて欲しいと思う。デミオのインテリア、いやデミオというクルマには、それだけの可能性が備わっている。 数少ない弱点になりそうなのが室内スペースだ。スタイリッシュなフォルムとゆったりしたペダルレイアウトにスペースを割り当てた結果、後席とラゲッジスペースにしわ寄せがきている。室内の広さに惹かれて初代&2代目を購入したデミオオーナーからすると、先代同様、新型も広さでは満足させてくれないだろう。フィットと比べてもそのあたりの実力は劣る。身長175cm級の大人4人を無理なく収めることはできるが、それ以上の広さや広々感をプライオリティの上位に置いたクルマ選びをするなら、新型デミオは選択肢からはずれるかもしれない。 ロングドライブの圧倒的アドバンテージ新型デミオが重視した性能のひとつに「ロングドライブ性能」がある。軽自動車はもちろん、国産コンパクトカーには日常性能に特化したものが多く、ロングドライブは苦手だ。それに対し、新型デミオは欧州のコンパクトカーのように一気に数百km走っても苦にならないことを目指して開発された。 そのために開発陣が重視したのが自然なドライビングポジションだ。フロントホイールを前方に押し出すことでホイールハウスの出っ張りを小さくし、ゆったりした足下空間を利用してペダルを体の正面に配置した。写真ではわかりにくいが、シートに座ってステアリングを握り、ペダルに足を乗せると、コンパクトカーとは思えないゆったりした感覚を味わえる。ペダルのオフセットがなく、きちんとしたドライビングポジションを取れるためだ。正しいドライビングポジションは、座った瞬間の気持ちよさだけでなく、ロングドライブ時の疲労軽減やコーナリング時の運転しやすさにも効いてくる基本中の基本だけに、機会があればぜひご自分で体験してみることをオススメしたい。身体を適度にサポートしつつ、体重を上手く分散してくれるシートも、ロングドライブ時の疲れが少ない理由のひとつだ。 新型デミオが搭載するのは1.3Lガソリンと1.5Lディーゼルの2種類。ATはともに6速で、MTはガソリンが5速、ディーゼルが6速となる。なかでも大きな注目を集めているのが1.5Lディーゼルだ。 最初に試乗したのは1.5LディーゼルMT。220Nmという2.2Lエンジン級のトルクをわずか1400rpmから発生する特性をもってすれば、1-3-5速のような飛びシフトも楽勝。高速道路では6速キープのまま右足の動きひとつでいかようにでも速度コントロールができる。シングルターボということで憂慮していたターボラグも、ないといえば嘘になるが許容範囲内。慣れてくればアクセルを踏み込むタイミングと量で思い通りの加速を思い通りのタイミングで得られるようになる。 とはいえ、ディーゼルを選ぶのであれば僕なら6ATを選ぶ。最大トルクが250Nmまで増すのもさることながら、MTで大切なトップエンドの伸びきり感がさほど感動的ではないのが理由のひとつ。加えて、太い低中速トルクとロックアップ領域の広いダイレクトな6ATとの相性がとてもいいからだ。軽くアクセルを踏み込むだけで分厚いトルクが湧き出て、大きな手で背中をぐぐーっと押されるような頼もしい加速が始まる感覚はとても気持ちがいい。アクセルを深く踏み込み、車速の伸びが付いてくるのを待つのではなく、踏めば踏んだだけの加速が手に入る感じ、といえばわかりやすいかもしれない。これなら大排気量エンジンを搭載した上級車から乗り換えても十分満足できるし、普通のコンパクトカーから乗り換えたら、それこそ目から鱗が落ちること請け合いである。 優れた静粛性もディーゼル車の魅力だ。ちょっと信じられないかもしれないが、ディーゼルを積んだCX-5よりも車内は静かなほど。エンジンそのものの静粛性に加え、車体側の入念な遮音対策がクラスを超えた静粛性を生みだしている。 そしてもちろんディーゼルといえば燃費。今回は試乗会での試乗だったため燃費の計測はできなかったが、開発者のコメントによると、高速道路をゆったり巡航すればカタログ燃費(MTが30km/L、ATが26.4km/L)は十分狙えるという。少なくとも高速道路での燃費ならハイブリッド車に負けていないわけだ。それでいて2L超級の余裕の走りが手に入るのだ。ロングドライブをする機会が多いなら、新型デミオは圧倒的なアドバンテージをもっている。 コンパクトカーの常識を破る上質な乗り心地同じLパッケージで30万円弱安い1.3Lガソリンエンジンはどんなキャラクターなのか。最大トルクはディーゼルの約半分。乗り比べるとさすがに線の細さを感じてしまう。しかし同クラスのライバルと比べると、実用域のトルクは間違いなく太っている。エンジンのもつ優れた素性に加え、カタログ燃費よりもドライバビリティや実用燃費を重視したセッティングの恩恵だ。 こちらも6ATと5MTに試乗したが、好印象だったのは5MT。ATでも過不足なく走るが、少しペースを上げて走ろうとすると、トルクの細さを回転数でカバーするために回転が上がる。複数乗車の上り勾配などではキックダウンも頻繁に起こる。この回転上昇が、ATの場合はときに煩わしさに感じるのだ。ディーゼル車よりも遮音材が少ないため、回転上昇時のエンジン音もやや気になった。それに対し、MTはすべて自分の意思でコントロールするため、回転を上げて走ることがむしろ楽しさにつながる。MTを駆使しながら、線は細いが上まで元気に回るエンジンを操るのはとても楽しい作業だった。というわけで、予算に余裕があるならディーゼルAT、余裕がないならガソリンMTというのが僕のパーソナルチョイスとなる。 フットワークについてまだ触れていなかった。実はディーゼルエンジンから受けたのと同じぐらいの衝撃を受けたのがこの部分だ。まず、肝心要のボディ剛性がしっかりしている。そこにしなやかに動く足を組み合わせた結果、従来の国産コンパクトカーの常識を破る上質な乗り心地を実現しているのだ。この点でも、新型デミオは舌の肥えたダウンサイザーをも満足させる実力の持ち主だと言える。 ハンドリングは正確にして素直。マツダ=ズームズーム=スポーティー=クイックなハンドリングというのは過去の話であり、CX-5以降のマツダ車はさらに高い次元のハンドリングを追求している。クイックさではなく、いかにしてドライバーの狙い通りにクルマを動かすか。この点において新型デミオの実力はそうとうなレベルに達している。人馬一体感、あるいは自分の運転が上手くなったような感覚。それは、クルマを意のままに操る楽しさに直結する。ある意味玄人好みのセッティングとも言えるが、走れば走るほどにクルマへの信頼感と愛着が増していくのはこういうセッティングだ。 タイヤが悲鳴を上げるほどのコーナリングをしても破綻せず、前後タイヤを上手くバランスさせながらきれいにコーナーを回り込んでいく限界特性。酷使しても音をあげないタフなブレーキなど、普通の試乗ではわからない領域での作り込みにも手抜きは一切ない。 インテリアの質感やステアリングフィールの滑らかさなど、このクラスのベンチマークカーであるポロに及んでいない部分はあるが、価格差を考えれば新型デミオのコストパフォーマンスの高さは文句なしに高い。一方、国産ライバルとの比較においては、広さやカタログ燃費ではなく“質”に着目するなら新型デミオは抜きんでた存在だと断言できる。果たして日本のライバル各社は新型デミオをどう受け止めているのだろうか。もし脅威を感じて追随することを選択すれば、日本のコンパクトカーの実力は大きくジャンプアップすることになるだろう。そういう意味でも、新型デミオの意義は大きい。 詳細スペック【 13S 】 【 XD ツーリング Lパッケージ 】 |
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