高効率というより、発進から滑らかで力強い加速が印象的すでに多くの試乗記が掲載されているので、ご覧になった方も少なくないだろう。メルセデス・ベンツがSクラスの新グレード、S450に搭載したM256型と呼ばれる最新の直列6気筒パワートレインは、実に画期的な存在だ。復活の直列6気筒レイアウトにターボチャージャー、更にインテグレーテッド・スターター・モーター(ISG)、電動スーパーチャージャーの組み合わせは、もちろん第一義には高効率性を狙ったものだが、何より嬉しいのは新しいドライビングの歓びを存分に堪能させてくれることである。 メルセデス・ベンツが“EQブースト”と呼ぶISGによるモーターアシストと、排気圧力が高まらないと過給圧が上がらないターボチャージャーと違って、低回転域でも即座に過給効果を発揮できる電動スーパーチャージャーと、完全バランスを実現した直列6気筒エンジンのマッチングは上々。発進の瞬間から滑らかさが光り、そして非常に力強く加速していく。沢山のデバイスが加速を後押ししているけれど、段付き感のようなものはまったく無く、フィーリングはあくまで滑らかに終始する。 回生エネルギーの電力でスーパーチャージャーを回す新発想実は本国ではこのユニットには、電動スーパーチャージャー無しのものも登場している。先日スペインで試乗してきた新型CLS450 4MATICに搭載されていたのだが、こちらの最高出力は367psで変わらず、スムーズさやドライバビリティについても申し分無いものの、低速域からアクセルを一気に踏み込むような場面でのトルク感は、さすがに仰け反るほどではなかった。最高出力は変わらないものの、車両重量の嵩むSクラス用として採用した電動スーパーチャージャー、違和感は無いけれどそれぞれにちゃんと仕事をしているというわけだ。 ちなみにこの時、同時に搭乗したAMG CLS53 4MATIC+には、電動スーパーチャージャー付きで尚且つ最高出力を435psまで高めたユニットが搭載されている。より大容量のターボチャージャーを使うことができたのも、やはり電動スーパーチャージャーによって低速域のピックアップを確保できたからこそである。 ハイブリッドやプラグインハイブリッドのメリットのひとつとして挙げられるのが、減速エネルギーを熱で放出してしまうのではなく、回生して電力として使用できることだ。けれど、その電力を必ずしも電気モーターの駆動に使わなくてもいいでしょう? というのがこのM256型でメルセデス・ベンツが目を付けたポイント。実際、S450はEQブーストやアイドリングストップからの瞬時且つショック無しの再始動などは行なう一方で、電気モーター単独では走行せず、そのためメルセデス・ベンツでは、これをハイブリッドとは呼んでいない。こういう手もあるのだ。 電動化が新たな走りの歓びを味わわせてくれる電動化が走りの愉しさに寄与した例としては、ホンダNSXも印象的な存在と言える。3モーターを活用したSPORT HYBRID SH-AWDのハンドリングもそうだが、感心したのは加速の際のレスポンスの良さだ。3.5Lの排気量から最高出力581psを稼ぎ出すべく大容量ターボチャージャーを使っているにも関わらず、アクセル操作に対してまったくターボラグを意識させないのは、過給が立ち上がるまでのタイムラグの間に、まずは瞬間レスポンスの電気モーターでクルマを前に進めているから。逆に言えば、こうして初期応答を得られることを前提にターボチャージャーを大容量化し、突き抜けるような吹け上がりを可能にしている。 この話を聞き、そして実際にテストした時にも、その見事な発想に感心、感動させられた。電気モーターの併用を単なる出力アップにではなく、エンジンの旨味をより引き出すために使うという考え方に、大いに新鮮味を覚えたのだ。電気をうまく活用するその方法として、ストレートに電気モーターを使っている辺り、電動スーパーチャージャーの技アリ感と較べると派手さは無いが、しかし、メルセデス・ベンツにしてもホンダにしても狙いは一緒である。 率直に言って、従来のハイブリッドやPHEVの走りには、今ひとつ面白味を欠くというイメージが強かった。しかしながら、ここに来てこのふたつのパワートレインのように、電動化をむしろ内燃エンジンの旨味を更に引き出す方向に使い、新たな走りの歓びを味わわせてくれるものが出てきたことで、個人的にこの領域への注目度が俄然高まっている。すぐに皆がピュアEV化するわけではなく、ハイブリッドやPHEVが今後ますます大きな位置を占めていくだろうと考えれば、その歓びが増していくことは間違いなく朗報だろう。もちろん、この後にもまた面白い電動化の活用法が生み出されるに違いない。個人的には、トヨタがマルチステージハイブリッドに続いてどんなかたちでそれを見せてくれるのかが楽しみなところだ。とにかく、どんな時代になってもクルマは面白い! そう改めて実感している昨今なのである。 |
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