パワートレインを目的や好みに応じて選択できる時代へいま巷でもっとも注目を集めている1台と言えば、プラグインハイブリッド時代の本格的な幕開けとなりそうな新型トヨタ プリウスPHVだろうか。いや、新車販売を見ればニッサン ノートe-POWERのような半電気自動車とでも言うべきシリーズハイブリッド車も売れているし、ピュアEVだってリーフがじわじわと販売を伸ばし、プレミアムカーの世界ではテスラ モデルS、モデルXがリッチ層から熱い視線を注がれている。忘れてはいけない、日本ではトヨタ MIRAI、ホンダ クラリティ フューエルセルといった燃料電池自動車(FCV)も、すでに走り回っている。 一方で、プリウスに代表されるハイブリッド車は、この国ではもはや普通の存在となっている。日本の次世代パワートレイン事情は、まさに最先端にある。 いやいや世界の変化も、これまた急だ。特にドイツ勢は2016年、こぞって将来のEV化に向けての方針を明らかにして驚かせた。フォルクスワーゲンは将来をEVに託すとして、Eモビリティのブランド「I.D.」を立ち上げた。メルセデスも同様に「EQ」ブランドの展開を発表。忘れてはいけない、BMWはすでに「BMW i」を展開中だし、ポルシェも近い将来「ミッション-E」と呼ばれるEVを登場させると宣言している。 今は押され気味にも見えるFCVにも、大きな動きが起こりそうだ。GMとホンダのコラボレーションは順調に進み、2020年頃にはプロダクトとして形になりそう。しかも、そこには今後、PSAグループも加わることになった。ドイツでも、メルセデス・ベンツ、そしてトヨタと提携したBMWが参入してくる様子だし、何より大事なインフラ整備についての動きも世界中で進行中だ。 これら次世代パワートレインが目指すものは、一番には環境負荷の低減であり、またエネルギー問題の解決である。けれど我々ユーザーにとっては、これらは単純に新しい技術、新しいドライビング感覚に触れる歓びにも繋がっている。 これから当面の間、私たちは次世代の様々なパワートレインを目的や好みに応じて選択できるようになるだろう。では、その中から一体どれが自分にもっともフィットするものになるか。ここからの解説で、イメージしてもらえれば嬉しく思う。 ディーゼル:経済性がメリットも今後の課題はコスト日本にはディーゼル乗用車の選択肢がほとんど無い。そう言っていたのは、ほんの数年前のことだ。しかし今や、ディーゼルは完全に市民権を取り戻したと言っていいだろう。たとえばマツダ車などは、むしろディーゼルの方が主体になっているぐらいなのである。 そもそもディーゼル復権のきっかけとなったのは、メルセデス・ベンツによるクリーンディーゼル乗用車の導入だった。そして、その世界を一気に拡大したのがBMW。当時のトップの「ヨーロッパで大いに支持されている素晴らしい技術を、日本にも紹介しないのはおかしい」という鶴の一声で導入へと進み、それが大成功となった。そして今やボルボ、プジョー、シトロエンといったブランドもディーゼルを主軸として展開するに至っている。ヨーロッパでの実績があるだけに、いざやると決まると輸入車の勢いは凄まじいものがあった。 ディーゼルのメリットは当然、一番には経済性だ。そしてパワフルさ。その低回転域から発生する分厚いトルクを味わってしまうと、ガソリン車がかったるく思えてしまうほどである。 一方でネガとして指摘されてきた騒音や振動は、技術の進化により相当なレベルまで抑え込まれてきている。もちろん音質はガソリン車とは違うが、それは優劣ではなく、もはや相違に過ぎない。 今後の課題はコストだ。排ガス規制がこの先、更に厳しくなってくると、すでに十分高価な排ガス後処理デバイスに、更に追加が必要になる。そうなると特にコンパクトカーには厳しい。現在のヨーロッパのEV指向、あるいはダウンサイジングガソリンエンジン回帰の動きには、そんな背景もある。 とは言え、その高効率性はやはり魅力であることに違いなく、中~大型車を中心にこれからも当面は、多彩なディーゼルを楽しめることになるはずだ。特に今年、筆者がもっとも期待しているのは4月にもデビューすると言われている新型Sクラスから搭載が始まるメルセデス・ベンツの「直列6気筒ディーゼル」。スムーズかつトルクフルなフィーリングを、早く味わってみたい。 ハイブリッド:バッテリー容量の拡大が今後のキーに先日、トヨタのハイブリッド車の累計販売台数が1千万台を突破したという発表があった。初代プリウスがデビューしてから、20年での偉業達成である。 そんなハイブリッド車だが、日本ではもはや当たり前の存在になっていると言っていい。これは世界でも類を見ない、驚くべき状況だが、ここに来てヨーロッパでも、マイルドハイブリッドまで含めれば急速に、存在感を増してきている。それには、やはりディーゼルの優位性が失われつつあるのが大きそうだ。クルマを道具として見て、ランニングコストを含めた価格を重視して選ぶならば、今後はますますディーゼルの美味しさは損なわれていく可能性が高い。一方でハイブリッドは相対的にコストが下がってきて、魅力を増してきているのである。 日本の、しかも都市部で乗るならば、ハイブリッド車の燃費は他の追随を許さない。車両価格の差を回収するまでにはどれだけの距離を乗らなければいけないのかと考えると疑問符はつくが、ハイブリッドの価値は単にコストだけではない。そのリニアで滑らかなパワー感、モーターによる静かで滑らかな発進の魅力も、見逃せない部分だ。 トヨタTHS-IIのシリーズ・パラレル式のように、走行中も頻繁にエンジン停止し、車庫入れの際などには電気モーターだけでの走行も可能となると、やはりメリットは大きい。今やすっかり当たり前になった感もあるが、いざエンジン車に戻ると、なんとも粗野な乗り物に思えてしまったりもするほどである。 ニッサンがノートに搭載してデビューさせたe-POWERも、その旨味を更に伸ばしたハイブリッドという中に括るべきだろう。これも一度体験してしまうと、小排気量ガソリンエンジンに戻るのは難しいに違いない。いや、プリウスやアクアのTHS-IIすら古臭く感じさせるほどの破壊力があると言ってもいい。 そんなハイブリッドの今後は、バッテリー容量の拡大がひとつのキーになりそうだ。プリウスであれノートe-POWERであれ、もう少しエンジンが始動するのが先ならば、燃費も稼げるし、ドライビングフィールだって良くなるはず。かと言って外部充電はしなくても良く、要は今まで通りに使えればいい。コストとの兼ね合いはもちろんあるが、この方向性はアリだと思う。 PHV:次世代パワートレインの主役になれるかトヨタ プリウスPHVが飛躍的な進化を遂げた新型になった。三菱 アウトランダーPHEVとあわせて、いよいよPHV=プラグインハイブリッドが、次世代パワートレインの主要プレイヤーのひとつとして市民権を得てきそうな気配である。 ヨーロッパ勢も沢山のPHVを導入しているが、これらは現状ではヨーロッパのCO2規制をクリアするための存在という域を出ておらず、PHVのメリットは活かしきれているとは言い難い。電気モーター走行中はいいが、ハイブリッドモードになるとバッテリーが重く、1モーター故に効率は今ひとつのクルマになってしまうのだ。ハイブリッドモードで、プリウスと同等の燃費を実現したプリウスPHVは、その点で図抜けていると言える。 その他のPHVの課題は、やはり価格だ。エンジン、電気モーター、大容量バッテリーまで積むとなれば、それも当然。現状では、プリウスPHVでもまだ新しもの好きの、懐に多少なりとも余裕のある人向けと言っていい。構成部品の多さは、パッケージングの自由度にも効いてくる。実際、プリウスPHVは荷室の床が底上げされ、後席が2人掛けになってしまった。SUVならスペースの犠牲は少ないが、誰も彼もがSUVを欲しているわけではないわけで……。 しかしながらトヨタは、次世代パワートレインの主役はPHVだと宣言し、開発に力を入れている。またアウトランダーPHEVの技術に、親会社となったニッサンが大いに興味を示しているのもご承知の通りだ。そしてホンダも、何とクラリティのボディを使ったPHVを登場させると発表した。つまり日本の主要メーカーは、今ここに注力しつつあるというわけだ。 もちろんヨーロッパ勢だって現状に甘んじているつもりはない。最新モデルの中での注目は、何と言っても「ポルシェ パナメーラ ターボS Eハイブリッド」だろう。従来のターボSが、言わばターボのブーストアップ版だったのに対して、最新のハイエンドモデルは、ターボのエンジンを使ったPHVとして仕立てられた。PHVをパフォーマンス向上アイテムとして使ったのだ。最高出力はターボの550psに対して、驚きの680ps。こうした存在こそ、PHVのメジャー化に大いに貢献するに違いない。 バッテリーEV:次世代パワートレインの本命次世代パワートレインの中で、もっとも本命視されているのがバッテリーEV、要するに電気自動車だ。課題だった航続距離も、充電時間も、主にバッテリー価格の下落によって、どんどん短縮が進んでいる。そして価格も、随分と身近になってきた。量産EVの代表格であるニッサン リーフなどは、改良によってデビュー時より車両価格が下がり、航続距離は伸びているのだ。 デメリットが解消されてくれば、メリットに更に注目が集まることになる。EVは車両からは排ガスを出さないためローカルエミッションに優れ、走りはトルクフルかつスムーズ。そして静粛性も高い。これらは一度味わってしまうと、後戻りできなくなる大きな魅力と言える。 今後もEVは、航続距離を更に伸ばしてくるだろう。1回の充電で、額面で350~400km、実電費で250kmくらい走るようになれば、いよいよ文句を言う人は居なくなりそうだ。これなら毎日1時間ほどの通勤に使っている人でも、週末のうちに充電しておけば、1週間をほぼカバーできるはずだし、遠出するにしても、たとえば東京から名古屋までノンストップで行く人の方が稀だろうから、途中で1度、ティーブレイクを挟むだけで十分ということになる。 但し、こうしたメリットが広く認知されて、更に台数が増えてくると、充電インフラの数は再度、問題になってくるかもしれない。今でも週末などには充電の順番待ちに遭遇すること、少なくないのだから。 今年もこれから、新しい魅力的なEVがデビューを予定している。まずニッサン リーフの新型の登場は、すでにカウントダウンに入っている模様。そしてテスラ モデル3も、そろそろステアリングを握ることができるようになるだろう。他にも世界中のメーカーがこぞって開発を進めている状況だけに、今年から来年にかけては、かなりの斬新なモデルに出会うことができそうだ。とにかく今、一番ホットなセグメントが、このEVなのである。 ガソリンエンジン:進化はまだ終わっていないここまでは次世代という括りで見てきたが、少なくともまだ当面の間、パワートレインの主力は今と同様、ガソリンエンジンのはずだ。何しろノウハウは豊富だし、環境対策はディーゼルより容易。課題の燃費も、ここに来て更に改善が進んでいる。 何しろ量販車であるトヨタ ヴィッツのエンジンが今や熱効率38%を謳うのだ。内燃エンジンの熱効率は、ざっと約30%がせいぜいと言われていたのに……。高効率性の追求は進み、未だ更に先の世界を見ることもできそうな気配である。今後の潮流として、ダウンサイジングターボの隆盛は続くだろう。その場合、気筒数の削減、そして4気筒以上の場合は気筒休止を組み合わせる例も増えるはずだ。 一方、今後各国で導入予定のリアルドライビング・エミッションを考えると、過給するより、マツダSKYACTIV-Gのように自然吸気のまま排気量を拡大して常用回転数を下げる方が、旨味は大きくなる可能性も高い。実は、日本の別の某社も同様のコンセプトの新エンジンの開発を進めているとか……。 燃焼についても、高膨張比のアトキンソンサイクルが徐々に使われ出しているし、ここに来て遂にHCCI(予混合圧縮自着火)エンジンの市販化が実現しそうという報道も出始めた。夢のエンジン、いよいよ実現近しだ。 今年、試すことができそうな最新ガソリンユニットに、VW新型ゴルフの「1.5 TSI Evo.ブルーモーション」がある。1.5L直噴ターボエンジンに気筒休止、アトキンソンサイクル燃焼、可変タービンジオメトリー仕様のターボチャージャー、更にはアクセルオフ時のエンジン停止といった機能を備えることで、最高出力130psを確保しながら4.6L/100km(約21.7km/L)の低燃費を実現する。日本導入も検討中という。 またメルセデス・ベンツは今後、ガソリン6気筒エンジンもV型から直列へと変更する。直列6気筒3Lユニットにはターボチャージャー、そして電気モーター1基が組み合わされ、回生した電力は低速域でタービンを回して過給ラグを解消する。マイルドハイブリッド化は、特に大型車ではほぼセットとなっていくのだろう。 いずれにせよガソリンエンジンの進化はまだ終わっていない。将来に向けても、まだまだ楽しませてくれるはずだ。 FCV:現在は劣勢もメリットと価値は大きい最後にFCV=燃料電池自動車にも触れておきたい。次世代自動車の本命と推されていながら、現状ではEVに押されている感もあるFCVだが、そこには依然として圧倒的なメリット、そして価値がある。 まず充填の速さ、そして航続距離の長さは、未だ大きなアドバンテージだ。もちろんEVでもバッテリーを多く積み込めば航続距離は伸ばせるが、それはパッケージング面でも充電時間の面でも、現実味が乏しいのは言うまでもない。 そもそも電気は、そのまま貯めておくことのできないもの。もしEVが爆発的に普及していったら、それらを走らせるための電気はどこから持ってくるのか。貯めておけない以上、発電してすぐに使わなければいけないのだが、そうすると需要が集中する時間と、そうでない時間の大きなギャップが生まれてしまう。 特に再生可能エネルギーを使う場合、発電能力は気象条件などにも大きく左右される。バッテリーに貯めておく手はあるが、だとしたら一体どれだけの量が必要なのか、それをどこに設置するのか? そこで水素の出番だ。様々なかたちで発電された電気を一旦、水素へと変換して貯めておくのである。水素は貯められるし、自然放電もしない。エネルギー密度は高く、運搬も容易だ。必要な時にいつでも電気に変換して利用できるし、もちろんFCVにそのまま充填して走行すれば、一番効率的なことは言うまでもない。 次世代のパワートレインは、間違いなく電気駆動が主役になる。しかしながらEVが増えたら、火力発電も原発も増やすというのでは意味が無い。再生可能エネルギーで発電し、水素としてプールしておいて使うというのは、資源の無い日本にとってはとても有用だし、せっかくFCVの販売で先行したなら、国やメーカーは率先してそういうビジョンを示していくべきだろう。 現在はトヨタとホンダが先行しているFCVだが、そんなわけで自動車メーカー側は依然として次世代エネルギーの本命として、商品開発を進めている。メルセデス・ベンツは今年、FCVをプラグインハイブリッド化した「GLC F-CELL」の市販を開始する。ホンダと提携しているGM、そしてトヨタと組んだBMWも、2020年を目処にFCVを市販に移す予定である。そう、FCVはこれからが面白い。 |
GMT+9, 2025-5-1 04:43 , Processed in 0.090942 second(s), 18 queries .
Powered by Discuz! X3.5
© 2001-2025 BiteMe.jp .