Iペイスが三冠。ジムニーの健闘にも驚かされた毎年、ニューヨーク・モーターショーで最終選考結果が発表されるワールド・カー・アワードだが、今年は「ジャガー Iペイス(アイペイス)」がデザイン部門、グリーンカー(環境)部門、そしてワールド・カー・オブ・ザ・イヤーの3部門でそれぞれ最高票を獲得した。いわゆるハットトリックである。 今年のワールド・カー・アワードには「マクラーレン 720S」がパフォーマンスカー、「アウディ A7」がラグジュアリーカーにそれぞれ選出された。また、大きな驚きだが「スズキ ジムニー」がワールド・アーバン・カーに選ばれた。ジムニーがデザイン部門でもノミネートされていたのも驚きだ。 何度も驚いたのはジムニーがアメリカなどでは販売されていないからである(スズキは2012年に北米四輪事業から撤退している)。それでも知名度を上げたのは和田智デザイナーの影響力なのだろうか? ちょっとした謎だ。 ともあれジムニー(スズキ)の2部門ノミネート、そして初受賞は喜ばしいことだ。会場に居合わせたスズキ四輪商品第二部のチーフエンジニア米澤宏之氏の感激もひとしおだったに違いない。 ところで、ワールド・カー・アワード2019のIペイスだが、私が選考委員を務める「ジャーマン・カー・オブ・ザ・イヤー2019」、そして今期の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー2019」と立て続けにタイトルを獲得している。実にこちらでもハットトリックを成し遂げていたのだ。 Iペイスは日本でも発売が始まったが、ここで改めてこのジャガーの電気自動車SUVがどんなクルマかを報告しようと思う。 理詰めのドイツには真似できない美学が評価された2016年にこのクルマのプロトタイプが登場したLAモーターショーで私が受けた衝撃は尋常ではなかった。新鮮で格好が良かったのである。 4.7mのIペイスはフロントにパワートレーンを持たない電気自動車故に、ショートノーズで結果的にキャブフォワード、すなわちキャビンが前方にレイアウトされている。さらにAそしてCピラーが強く傾斜して小さなグリーンハウスを形成しており、新しいSUVクーペを形作っている。また、標準でも20インチの大径タイヤ、テスト車のようにオプションの22タイヤで引き締まったサイドシルエットを得ている。 まさにチーフデザイナーのイアン・カラムの“理詰めはでない”美学が見られると同時に、ダイナミックな印象を見る者に与えているのだ。 例えば高いウエストラインや、大きく寝かされたCピラーそして小さなリアウインドウなどはドイツブランドのSUVでは視界の悪化が問題になりNGだ。しかしイアンは、ジャガーのモットーである「グレース(Grace)優美さ」を優先。その結果、どこから見てもジャガーに見えるこのIペイスが完成したわけである。 一方、レザーとアルミから成るインテリアは上質そのもの、さらにクラシックなレイアウトとモダンなデジタルディスプレイが巧みに組み合わせられており、わずかな時間のコクピットドリルですぐに慣れる。ドライバーを含むパッセンジャーが前寄りに位置するキャブフォワードレイアウトなのでキャビンは広々としており、リアシートも大人3名乗車が可能だ。トランクルームは通常で約650L、最大で1450Lの容積を持つ。 オンロードもオフロードも、走りは想像以上パワートレーンはフロントとリアにそれぞれ147kW(200ps)の電気モーターが搭載されている。最大トルクは696Nm、システム最高出力は400ps、2.2トンの巨体を0-100km/h=4.8秒で加速させ、最高速度は200km/hでリミッターが介入する。 走り出すとそのエレクトリックパワーがすぐさま実感できる。わずかにドライブペダルを踏み込んだだけで、まさにネコ科の猛獣が獲物に襲いかかるようなダッシュが始まるのだ。それも彼らの得意技である何ら物音を立てずに密かに、あっという間にそこに到達する。 そして床下に置かれたおよそ600kgものバッテリーのおかげで低重心、160km/hを超えるハイスピードでも全く安定している。カントリーロードはこの利点がさらに鮮明だ。加えて50対50の重量バランスのおかげで重さを感じさせない軽快なハンドリングを楽しむことができる。 驚いたのはオプションの255/40R22サイズのピレリPゼロを履いているにも関わらず路面からの突き上げやロードノイズなどが非常に少なく、乗り心地も想像した以上に良かったことだ。SUVらしくオフロードでの走行も考慮されており、エアサスは5cm車高を上げ、水深50cmの渡河も可能にする。 充電インフラが整わない日本では“条件付”のクルマテストを終えて感じたのは電気自動車の時代はもう来ているということだ。現時点で入手可能な技術でも量産化は可能で、このIペイスのように十分な性能を持った市販車を提供することができる。 その点でこのジャガーIペイスはドイツ・メーカーを尻目にパイオニア的な役割を果たしただけでなく、実用性の高い自動車としてデザイン、パッケージ、ダイナミック性能を達成している。そこが欧州、ドイツそして世界で認められたわけである。 と、まあ、ここまで良い事尽くめのレポートだったが、問題は充電インフラである。幸いなことに、私の住んでいるフランクフルト周辺にはかなりの充電設備が出来上がっている。それでも100kWの直流充電器を使っても80%の充電まで40分も掛かってしまう。 もっとも、ドイツでは家庭電圧が230Vなので、最悪は家のコンセントに一晩繋いでおけばなんとかなる。しかし、日本の場合は残念ながら「充電インフラが整った環境、あるいは整った時点で」という条件付きで最高の車ということになってしまうのだ。 |
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