30万台生産されたGクラス、日本は世界3位の市場Gクラス(通称ゲレンデヴァーゲン)はまだSUVの影も形もない1979年に登場した。きっかけは1972年、当時メルセデス・ベンツの株を18%所有していたイラン国王のモハメド・レザ・パーレビの要請によるもので、国境警備と野戦用として注文されたのだ。しかし、一国の軍用とはいえ台数は限られるし、加えて当時の(そして現在も)イランとイスラエルの政治的な関係を考慮して、メルセデス・ベンツはオーストリアの四駆スペシャリスト「シュタイア・ダイムラー・プフ」と共同設計開発を選択した。そして3年後、1975年にオーストリアのグラーツで量産の決定が下り、1977年にメルセデス・ベンツとシュタイア社はジョイント・ベンチャーを設立、1979年から初代Gクラス(W460)の販売が始まった。実はこの間に、生産台数を増やす為、メルセデス・ベンツはドイツ軍に採用されることを目論んでいたが、こちらはVWのイルティスが選ばれてしまった。 こうして年間平均1万台弱の規模での生産が始まった。そしてこの後、W461、W462、W463と、なんと38年間ボディは不変、搭載エンジンや駆動系のアップデートとインテリアの近代化だけで2017年までおよそ30万台が出荷された。主な市場はアメリカ、ドイツ、そして日本が3位に入っている。絶対数は多くないが40年近く不変のスタイルを持ったモデルがこれほど長い間生産された例はない。 現行型から引き継いだパーツはわずか4点そして2018年、W463が大きく進化する時がやってきた。メルセデス・ベンツの歴史的アイコンの一台となったGモデルを存続させるには、約40年も前の設計ベースでは、今日の安全性や乗り心地を提供するのは不可能である。そこでフルモデルチェンジが決まったわけだが、アイコンの固まりであるGモデルの、特にエクステリア・デザインを変えるわけには行かず、できるだけ昔のまま、可能なら同じパーツを使うという、ガチガチのキープ・コンセプトで開発がスタートしたのだ。 とはいえ、今日の様々な要求に応えるためには結局、根本から新しくすることになり、そのまま再使用したパーツはドアハンドル、Cピラーのエアアウトレット、リアにマウントされたスペアタイヤ、そしてヘッドライトウォッシャーノズルの4点しか残らなかった。 開発戦略担当のトーンベルガー氏は「可能な限り使えるモノは残したかったのですが、快適性の追求や法規制、ハイテクなどの採用でドミノ式に新設計が増えていきました。それでも絶対にアイコニックなデザインを残すように努力したのです。それどころかドアの開閉音までこだわっています。さらにフロントフェンダー上のウィンカーですが、歩行者保護の観点から本体全部が沈み込むようになっています。同じようにバンパー先端からエンジン前部までの距離、つまりクラッシャブル・ゾーンも約40センチと旧モデルの約2倍を確保しています。安全面では間違いなく今日の要求値を大きく上回るレベルに達しています」と解説している。 開発チームの意思は開発コードにも現れている。私が、プレスキットに新しい開発コードが記載されていないので不審に思って質問してみたところ、広報担当のクリスはニヤッと笑いながら「よく気がついたなぁ、実はW464となるべきところを、意図的にW463のままに留めたんだよ!」と答えたのだ。 G500は0-100km/h加速5.9秒、AMG G63は4.5秒さて、そろそろ試乗開始だ。今回、南フランスの歴史的城塞都市カルカソンヌに持ちこまれたニューGクラスの外観は、一目見ただけでは旧モデルと見分けがつかない。サイズも長さが53mm、幅が64mm増えただけでプロポーションも不変、わずかにヘッドライトやバンパーから左右フェンダーに繋がったフロントエンドでようやく見分けが付くくらいだ。ドアの開閉に伴う「ガチャッ」という音まで旧型のそれが再現されているのである。 スチール製のラダーフレームに構築されたボディは超高張力鋼板とアルミの混成構造で、緻密なデジタル・プロトタイプを使って様々なシミュレーションによる開発を行なった結果、旧モデルから170kgの軽量化に成功、同時にねじれ剛性は55%向上している。 テストに用意されていたのは2機種。G550とAMG G63である。前者には422馬力(310kW)と610Nmを発生する4リッターV8ツインターボに9Gトロニック(トルコンオートマチック)が組み合わされ、約2.5トンのボディをスタートから5.9秒で100km/hに、最高速度は210km/hと発表されている。 一方AMG G63に搭載されているエンジンは5.5リッターから4リッターにダウンサイズされたV8ツインターボで、最高出力は585馬力(430kW)、最大トルクの850Nmは2500~ 3500rpmの間で発生する。組み合わされるトランスミッションはAMGスピードシフト9Gトロニックで、スタンダード仕様には見られないスポーティな変速スピードを提供する。その結果ダイナミック性能は0−100km/hが4.5秒、最高速度はノーマルで220km/h、AMGドライバーズ・パッケージを購入すると240km/hまで引き上げられる。 環境への配慮も考えられており、 ベースモデルのエンジンと同様にAMGにもシリンダー休止システムとアイドリングストップ機能が搭載されている。この結果、カタログには100kmあたり15リッター(6.7km/L)と記載されているが、これはあくまでも参考値として捉えるべきである。 欧州での販売価格はG550が約1400万円~えいやっと乗り込んだドライバーシートは見晴らしが良く、司令塔のように周りを一望できる。正面のダッシュボードはすでにメルセデス・ベンツの他のクラスでおなじみの12.3インチのフラット・ディスプレイを繋げたワイドスクリーン・コクピットで、基本的にはステアリングスポークにあるスクロールボタンと、フィードバックのあるタッチ操作機能でクラシック、スポーツ、プログレシブの3種類の選択画面から情報を呼び出す。 確かにセンターコンソールには3箇所のデファレンシャルをロックするノスタルジックなクロームメッキのタンブラースイッチが並ぶが、外観の維持にこだわったGクラス故に、インストルメントパネルにもっとアナログ的なモノを期待した私は、ちょっとがっかりしたのも確かである。 しかし走り出すと、前述のように高い着座位置からの眺めはやはりGクラスで、大きく違ったのはすっかり洗練されたシャーシがもたらす確かなロードホールディングと快適性であった。それをもたらしたのは新設計のダブルウィッシュボーン・フロントサスペンションと、トレーリングアームとパナールロッドで固めたリジットアクスルである。前述のトーンベルガー氏は「トヨタ・ハイラックスも長い事リジットだったのですが、やはり独立化しました。我々もオンオフの高い両立性を目指して今回決断をしたわけです」と告白している。 AMG G63のドライブロジック「ダイナミック・セレクト」はコンフォート/スポーツ/スポーツ+の3つを基本にインディビジュアルとスリッパリー(低ミュー路)が加わる。初めは慎重にコンフォートを選んでいたが、山間のワインディングロードでは最もホットなスポーツ+を試してみる。最初こそ敏感なスロットルとイナーシャの増したステアリングに戸惑ったが、慣れてくるとパーシャルスロットルと早めのターンインでワインディングロードを十分に楽しませてもらった。ロールは確かに大きいが、4輪がきちんと路面をグリップしているので不安は全く感じない。ニューGクラスはファーストカーとして、日常のシーンでも十分以上の活躍をするに違いない。 ランチブレークに到着したのはシャトー・デ・ラストゥアーズ、美味しいワインとオフロードコースで有名な場所である。前者はともかく、後者は“有名”と言っても業界関係者だけで、ランドローバーやメルセデス・ベンツがオフロード開発に使う本格的なコースがある。 この開発コースの一部で行われた我々のオフロード試乗は想像を超えるもので、思わず「引っくり返る!」「落っこちる!」「流される、溺れる!」と叫びたくなるような難所を、Gモードをセレクトしてなんなくクリアしてゆく事ができる。この状況を数字で説明すれば最大登坂が45度、傾斜は35度、そして渡河深度は700mmをこなしたことになる。3つのデフがロック可能でエクストラ・ローを持つGクラスは、以前にも増して軟弱なSUVとはかけ離れたオフロード性能を持っていた。 ドイツにおけるG550のベース価格は10万7040.50ユーロ(19%の付加価値税込みで約1400万円)である。日本市場への導入は今年の9月からだが、AMG G63には右ハンドル仕様が用意され、G550では左ハンドルも選択可能だ。ただし細かな装備や価格に関しては、このレポートを送った5月5日時点ではまだ正式な発表は行われていない。 ※日本での発売等への記述は取材記者が海外試乗会で独自に入手した非公式の情報に基づいている場合があります。 スペック【 G 550 】 【 AMG G 63 】 ※欧州参考値 |
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