完全にふさがったグリルはオーナーに不評だったメルセデス・ベンツがBEV(電気自動車)である「EQC」を発表したわずか2週間後、アウディは同じBEVの「e-tron (eトロン)」をサンフランシスコで発表した。この発表会の規模はメルセデス・ベンツのそれを大きく超えるもので、参加したのは我々ジャーナリストだけでなく、全米ディーラーと招待客を含み、その人数は1600名と公式に発表された。 サンフランシスコでのワークショップを終えて、我々が船で向かったのは対岸のリッチモンド、その桟橋にある歴史的な建造物クレーンウェイ・パビリオンである。まずは上空から、インテルのドローン「シューティングスター」850機(!)がアウディのフォーリングス・フォーメーションで我々を迎えてくれた。盛大なショーのオープニングは、逮捕された前CEOルパート・シュタッドラーに変わって6月からアウディの臨時社長となったエイブラハム・ショットによって行われた。このように重要な場で「Temporary(一時的)」との肩書きで紹介されたことに違和感を覚えたのは私だけだっただろうか? さて、正式名「アウディ e-tron 55 クワトロ」のデザインで気がつくのは、テスラや「日産 リーフ」などのBEVで見られないフロントのラジエーターグリルである。この部分はドイツのプレミアムブランドにとっては重要なデザインアイコンであり、EV化によってどのように変化するのか大いに興味がある。アウディではシングルフレームグリルが残っているが、およそ3分の2はシルバーに塗られて塞がっており、中央部分が補器類の冷却用に貫通している。 アウディのチーフデザイナー、マーク・リヒテによれば、実は一般オーナーにヒアリングしたところ完全にふさがったグリルは評判が悪く、このソリューションになったが、さらにブラックアウトした古典的なデザインも用意されると説明された。まあ、未来へ向けて半歩前進と言ったところである。 専用プラットフォームを避け、Q5ベースで様子見「技術による先進」を謳うアウディにとっても、BEVのデザインにおける革命的な進歩は難しそうだ。なぜなら電気自動車がここ数年でどれだけ普及するかは「神のみぞ知る」状態なのである。それゆえにこのe-tronはMLB evo(縦置きモジュラープラットフォーム)という「Q5」と同じプラットフォームを流用している。アウディにはVWが開発したMEB(モジュラー・エレクトリック・プラットフォーム)を使う可能性もあったが、電気自動車の販売台数については予想が難しいゆえにコンベンショナルな選択を余儀無くされているのであろう。 ただ「メルセデス・ベンツ EQC」とは違って、先端技術のバーチャル・サイドミラーを搭載しているのがチャレンジングなポイントだ。ただし北米市場では現時点ではホモロゲーションが取れておらず、当面はコンベンショナルなドアミラーが標準装備される。 ボディサイズは全長4.90m、全幅1.94m、全高1.62m、ホイールベースは2.93mと、全長がEQCより14cm長い。この長さは、もちろん主にキャビンの広さを確保するためだが、それ以上に0.28という優れたCd値を目指した結果だと思われる。 電気モーターは2基搭載され、フロントは125kW(170ps)と247Nm、リアは140kW(190ps)と314Nmをそれぞれ発生、システム出力は300kW(408ps)とメルセデスと全く同じ数値を持っている。ブーストをかけるとフロント135kW(184ps)と309Nm、リアは165kW(224ps)へと上昇し、0-100km/hが6秒以下、最高速度は200km/hに達し、ダイナミック性能ではEQCを上回っている。 充電性能はスタンダードで11kW、オプションで22kWが用意されている。アメリカでの価格は7万4800ドル(約840万円)、ドイツでの価格7万9900ユーロ(約1046万円)である。おそらく競争の激しく、同時に重要な北米市場ではマーケティング重視の価格が与えられたわけである。ただし北米の最初の割り当ては99台と非常に少なく、ディーラーの半分にも配給されないことになる。しかしこれが現状なのだろう。 e-tronの生産だが、電気モーターはハンガリー、アッセンブリーは現在「A1」が生産されているブリュッセル工場で行われる。ドイツでは来年早々、アメリカでも春先には発売が開始される。日本での発売時期は未定だ。 |
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