A110のトップグレード「R」――アルピーヌ「A110」に追加されたトップグレードの「A110 R」。その走りを、自動車ジャーナリストの山田弘樹氏がスペインはマドリッドで体感した。カーボンパーツをふんだんに取り入れた軽量モデルの仕上がりとは。
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>>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら “過激”という名のA110
2017年、実に40年ぶりの復活を遂げ、世界中のエンスージアストたちを虜にしたアルピーヌ「A110」。そんなA110の最も過激なエボリューションモデル「A110 R」に、スペインはマドリッドで試乗することができた。 そんなアルピーヌは、次世代のスポーツカーを電動化すると既に公言している。昨年のF1フランスGPでは、A110をベースとした「E-ternite(エテルニテ)」を発表。またこれまでライバル関係にあったロータスカーズとの間に覚え書きを交わし、EVスポーツカーの開発のみならず次世代モータースポーツのプラットフォーム作りにおける、協業の可能性を探ると公表した。 フランス語で「永遠」を意味するエテルニテのネーミングからもわかる通りアルピーヌは、電動化された未来においてもそのブランドを継続すると宣言したわけだが、だとすればなおのこと、細かな仕様を変更した限定モデルは登場するにしても、ガソリン時代最後のエボリューションモデルとなるこのA110 Rが、どれほどの仕上がりになっているのかは大いに気になるところだった。 ちなみにアルピーヌはこの「R」の称号に、“Radical”(ラディカル)というメッセージを込めている。直訳すればそれは、「過激な」や「徹底的な」を意味する形容詞だ。 しかし実際に走らせてみるとA110 Rは、過激とはほど遠い、実に懐深い走りを披露したのだった。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 出力はGT、Sと変わらず
搭載されるエンジンは、1.8直列4気筒ターボ。ルノー「メガーヌ R.S.」にも搭載されるルノー製「M5P」ユニットのアウトプットは、最高出力300PS/6300rpm、最大トルク340Nm/2400rpmと、スタンダードモデルより48PS/20Nmその出力が高められているものの、「GT」及び「S」モデルからは何ら変わりが無かった。 >>アルピーヌA110のグレード詳細はこちら >>メガーヌ R.S.の価格・スペック詳細はこちら エボリューションモデルにもかかわらず、パワーアップは見送りに。ここには少なくともふたつの理由が考えられる。 ひとつは、駆動系の耐久性だ。参考までに言うと、アルピーヌは先般のマイナーチェンジで「GT」及び「S」の出力を300PS/340Nmとした際、合わせて7速EDCの耐久性も一度向上させている。つまり彼らの基準に則れば、現状はこのパワー&トルクが、駆動系に対する保証しうる限界なのだろう。 また仮にパワーアップが若干は可能だったとしても、得策ではないと考えるもうひとつの理由は税金だ。フランスには馬力やCO2排出量、生産台数に応じた複雑な課税があるという。 であれば、いたずらにその出力を上げて消費者の負担を大きくするより、シャシーでそのクオリティを上げればいい。だからこそA110 Rは、他の手法で“過激さ”を表現した。それこそが「軽量化」と「空力性能の向上」だった。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 涙ぐましい軽量化
A110 Rのボディにはふんだんにカーボン素材が盛り込まれている。外観では、ボンネット、サイドスカート、ディフューザー(FRPと併用)、そしてガラス製だったエンジンフードがカーボン製となり、併せてバルクヘッドがFRP製のハニカムタイプとなった。 またホイールもフルカーボンタイプとなり、フロントはブレーキの放熱性を、リアは空力性能を高めるための“ホイールカバー”までもが、なんとカーボン製で取り付けられた。 従来からカーボン製だったサベルト社製のフルバケットシートは、同社のさらに肉薄なタイプへと改められ、2脚で約5kg軽くなった。 こうした軽量化によってA110 Rの車重は1090kgとなり、その加速はローンチ・コントロールとの併用で、0-100km/h加速が3.9秒にまで向上した。 とはいえそのトータル減量値は欧州仕様の「A110 S」比で34kgと、正直その価格差(561万円)ほどのインパクトはない。そもそもが軽いA110でドラスティックな軽量化を実現するなら、あとは外板パネルのフルカーボン化や、アルミバスタブシャシーのカーボン置換くらいしか手立てはない。ただこれを実践すれば、自ずとその価格も、さらに跳ね上がることになる。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 高速域に合わせたセッティング
彼らがカーボンパーツを多用した背景には、軽量化だけでなく空力性能の向上という大きなテーマがあった。 その内訳としては、まずバンパー開口部に専用パーツを装着することで、A110 S比で5%ほど空気抵抗を削減した。 また、サイドスカートは床下の面積を拡大しながらボディ剛性を高め、なおかつ後端部を立ち上げることで後輪にエアフローを当てない工夫を盛り込んだ。 デュフューザーはリアエンド方向に全長を伸ばし、フィンもその形状とサイズを見直してエアフローの拡散効率を高めた。さらにこのディフューザーを守るためエキゾーストは、3Dプリンタでダブルウォール構造のテールエンドを専用設計。そして極めつけは、A110 Sで投入されたスワンネックタイプのウイングが、ハイマウントかつ車体後端に取り付けられている。 こうした空力性能の向上と、20mmの車高ダウンによって、A110 Rはその最高速をA110 Sの275km/hから280km/hへと高めている。 興味深いのはその空力バランスで、A110 Rは、標準仕様のA110に対してそのダウンフォース量を、フロント側で30kg、リア側で110kgも増やしている。 しかしA110 Sに対しては、フロント側のダウンフォースが30kg低く、リア側が29kg高められている。つまりA110 Rは、フロントのダウンフォースより空気抵抗の削減を重視し、より高い速度域に走りの焦点を合わせたことになる。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 渾然一体となって押し寄せるシャシー性能の高さ
今回試乗したのは、1974年までF1が開催されていたハラマサーキット。全長3.4kmほどのミドルコースは平均速度が高く、その割に回り込んだ複合コーナーが多くて難しいコースだったが、初見でもA110 Rの穏やかな挙動のおかげで、これをストレスなく走りきることができた。 まずA110 Rで驚かされたのは、当たりの柔らかさだ。 その足下にはミシュラン パイロットスポーツ CUP2が装着されている。これに併せてスプリング剛性は前後で約10%、スタビライザー剛性はフロントで10%、リアで25%ほど高められているのだが、ピットロードを走らせた途端に乗り心地の良さが体に伝わってきた。 ZF製のダンパーが、短いストロークの中で路面からの入力を素早く減衰していたのだ。またフルバケットシートには必要最低限のパッドが貼られるのみだったが、このクッションがほどよく効いて快適性を高めていた。 パワー・ウェイト・レシオ3.6kg/PSの加速は過激過ぎず、アマチュアドライバーにはベストな速度感。ブレーキングからターンインにかけては車体の軽さに加えて、シャシー性能の高さが渾然一体となって押し寄せてくる。アルピーヌならではの気持ち良さが、そこにはきちんと受け継がれていた。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 好みにセットアップできる楽しみも
ただし元来のフロント荷重の少なさと、リア寄りとなった空力バランスから、フロントタイヤには適切なウォームアップを行う一手間が求められる。かくいう筆者も、ピットアウトした1コーナーでタイヤをロックアップさせ、あやうくグラベルベッドにつかまるところだった。 また、試乗車は安全を期してだろう、フロントダンパーの減衰力を緩めてハンドリングレスポンスを敢えて鈍めたセットが施されているように感じた。かつリアエンドは高いグリップを保っていたから、その挙動はかなり穏やかだった。 A110の素性から良く曲がるスポーツカーとしての印象はそれでも損なわれなかったが、しかしこれがA110 Rの真の実力かといえば、さらにその奥にはもっと刺激的なハンドリングが隠されているのではないか。残念ながら約5周の周回数では、それを完全には把握できなかった。 とはいえ、高速コーナーにおける空力性能の高さは少なからず感じ取れたし、何より高い速度域でもアマチュアドライバーが恐怖感を抱かず、むしろ自信をもってアクセルを踏み込める安定感が素晴らしかった。 その足周りは、ダンパーで20段階の減衰力調整が可能であり、スプリングシートを回せば車高バランスや前後の重量配分を好みに変えられる。 これを合わせ込んで行けば、きっとフロントのダウンフォース量を減らしてまで空気抵抗の向上にこだわったアルピーヌの意図も汲むことができるだろう。そしてこうしたセットアップを楽しむことこそが、A110 Rにおける最大の魅力だと言える。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら 高純度のクラブレーサー
サーキット試乗を終えて、一般道も100kmほど街中からワインディングまで走らせてみたが、ロードユース用に20mmほど車高を高めたA110 Rの乗り味は、サーキットと同様、予想以上に快適だった。 もちろん、A110やA110 GTほどのしなやかさはないが、高性能なダンパーが路面の入力を巧みに吸収して、しっかり感と上質感をもって乗り心地を確保してくれる。雨さえ降らなければ、浅溝なCUP2でもワインディングを楽しむことができるだろう。またサーキットまでの移動もかなり快適にこなせると思う。 総じてA110 Rは、チューニングこそ“過激”だが実に懐の深い、高純度なクラブレーサーだと言える。 さてそんなA110 Rだが、アルピーヌ・ジャポンによると、上半期に確保した18台の行き先は既に決まってしまったらしい。 A110 Rはカタログモデルだから、今後も販売は継続される。そしてアルピーヌ自身も欧州の法規次第ではあるが、2026年まではA110の生産を続けるとアナウンスしている。 ただその特殊性から生産可能な台数は少ないはずだから、どうしてもA110 Rを手に入れたいならば、早めにウェイティングリストへ名前を連ねることをお勧めする。 >>アルピーヌA110の価格・スペック詳細はこちら |
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