世界中のメーカーが参戦して盛り上がるWTCR10月26~28日、鈴鹿サーキットでFIA WTCR世界ツーリングカーカップ2018シリーズ第9戦「JVCKENWOOD RACE of Japan」が開催された。スーパーフォーミュラ最終戦と併催されたこの「WTCR」は、2015年に始まったTCRインターナショナルシリーズが、2017年限りでWTCCが終了したことを受けて、今シーズンから新たにFIAの管轄となってスタートした、新時代のツーリングカーレースだ。 「ツーリング・カー・レーシング」の頭文字を名称とするTCRは、市販車をベースにしたツーリングカーレース車両の規定で、改造範囲が限定されているため、メーカーとチームの双方にとって参戦コストが低く抑えられ、結果、アルファ・ロメオやVW、アウディ、クプラ(セアトのスポーツ・ブランド)、フォード、ヒュンダイ、キア、ラーダ、オペル、プジョー、ルノーなどの他、日本メーカーではホンダがカスタマー向けのTCRマシンを用意している。今後もメルセデス・ベンツやミニ、シュコダ、ボルボ、リンク&コー(中国・吉利汽車のプレミアム・ブランド)も参入する見通しで、今ひとつ盛り上がりに欠けたWTCCとは打って変わって活況を呈している、今後がとても楽しみなカテゴリーなのである。 レースイベントも、国際シリーズのWTCR以外にも、ヨーロッパシリーズやアジアシリーズ、ラスアメリカスシリーズなどの地域シリーズに加え、ヨーロッパ各国のシリーズやアジア各国のシリーズも行われている。日本でも2019年からTCRジャパンシリーズがスタートする予定だが、既に2017年からスーパー耐久シリーズに「ST-TCRクラス」が設けられ、日本国内のサーキットでバトルが繰り広げられているので、その勇姿を目にしたことがある人もいるだろう。 ゴルフRを40PSと20Nm上回るゴルフGTI TCR私は今回、9月22~23日にドイツ・ホッケンハイムリンクで開催されたドイツ国内シリーズ「ADAC TCRジャーマニー」最終戦で、VWモータースポーツが開発した「VW ゴルフGTI TCR」の最新バージョンの走りを、幸運にも体験する事ができた。 VWゴルフGTI TCRは、初代モデルが2015年夏に発表され、2016年シーズンから世界中のシリーズ戦や、ニュルブルクリンク24時間レースをはじめとした耐久レースのTCRクラスに投入されている。現行の2018年モデルは、エンジンこそデビュー当時と同じ2.0リッター直4ターボだが、最高出力350PS/6200rpm。最大トルク420Nm/2500rpmと、当初から20PSと10Nmの性能アップを果たしている。 このスペックは、ゴルフ・シリーズの最強モデルであるゴルフRと比較すると、40PSと20Nmも上回っており、改造範囲が詳細に限定されているとはいえ、TCRマシンがいかにハイチューンであるかが判るというものだ。しかも、ゴルフGTI TCRは6速シーケンシャルのレーシングトランスミッション(オプションでDSGも選択可能)が組み合わされ、駆動方式は4WDではなく2WD(前輪駆動)だ。相当な暴れん坊である事が容易に想像できる。 市販車ベースだが走りは完全なレーシングカー今回は、ゴルフGTI TCRの助手席に乗り込み、ホッケンハイムのフルコースでその走りを体験した。ドライバーは2017年にニュルブルクリンク24時間レースのTCRクラス優勝ドライバーであるベンヤミン・ロイヒター選手。彼がドライブするマシンの助手席には、過去にも数回乗せてもらったことがあるが、とても丁寧なドライビングが持ち味で、クルマのポテンシャルを引き出す能力に長けた、ドイツでも非常に優秀なドライバーの一人である。だからどんなに速いマシンでも、怖さを覚えたことはない。 だが、今回はちょっと違った。ゴルフGTI TCRは、市販車ベースのレーシングカーの想像を超える衝撃的な走りを披露したのである。 コースイン後の加速から脳天を打ち抜かれた。車両重量がドライバー込みでわずか1285kgと軽いことに加えて、レース用のスリックタイヤを装着したマシンは、野太く、猛獣が雄叫びを上げる様なエグゾーストノートをまき散らしながら、350PSと420Nmというスペックから想像する加速力を遥かに上回る、ロケットのような加速Gを味わわせる。コーナー手前のブレーキングも、5点式ハーネスが身体をバラバラにしてしまうのではないかと思うほど強烈だ。 コーナリング中は内蔵がよじれ、顔が歪むほどの横Gにさらされるが、クルマがバランスを崩す様子は全くない。強力なダウンフォースも手伝って、グリップ限界は相当に高い。市販車であればたとえスポーティモデルでもボディが悲鳴を上げるレベルだ。縁石を通過してもガッチリ固められたボディとシャシーが入力をバシッと受け止めている。バックストレートではあっという間に200km/hを越え、最高速度の250km/hに達した瞬間にコーナーにさしかかり、再び内蔵が飛び出さんばかりの減速&コーナリングGにさらされるのである。 マシンを降りて、ベンヤミンに感想を伝えると、「今日のドライブは、レース本番の80%くらいかな。でも迫力あったでしょ!」と笑顔で話していた。私もそれなりに速いクルマの運転経験はあるが、これほどまでに強烈な走りは初体験だ。ゴルフGTI TCRは、市販車ベースと侮ってはいけない。完全にレーシングカーなのである。 絶対的な速さでは、トップレベルのGTカーに引けを取るかもしれないが、TCRマシンはそれらに負けないダイナミックな走りを備えている。WTCRだけでなく、スーパー耐久や2019年にスタート予定のTCRジャパンシリーズでは、その異次元の走りにぜひ注目してもらいたい。 ---------- |
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