自動車の展示会=モーターショーに限界が来ている東京モーターショーの季節が近づいてきた。自動車関係者は2年に1度の国際的なモーターショーに様々な期待をしているが、どうも最近一般ユーザーやメディアからは、そっぽを向かれている感じがする。そのことを示すように、2015年(前回)の来場者数は2013年(前々回)の90万2800人を下回る81万2500人となり、震災のあった2011年の84万2600人にも届かないなど、地盤沈下が顕著だ。「若者のクルマ離れ」という言葉が流行語になるくらいだ。 主催する自動車工業会も若者を振り向かせようと必死だ。私が所属するAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)では、私の発案でガイドツアーを数年前から実施している。自動車ジャーナリストが自らガイドとなり、一般参加者と一緒にショーを巡るのだ。最近のクルマは色々な技術が搭載されており、専門家の知識がないと分かりにくいところも多い。AJAJのメンバーにとってもメーカーとユーザーの橋渡しができるなど、ガイドツアーは貴重な経験になっている。 しかし、自動車業界や自動車専門メディアが頑張ってもモーターショーの地盤沈下は止まりそうにない。この傾向は日本だけの問題ではなく、成長が望めない成熟した自動車マーケットでは共通の課題なのである。すでにデトロイトショーからは高級車メーカーが姿を消しているし、フランクフルトショーも今年は多くのブランドが参加していない(日産、三菱、インフィニティ、プジョー、DS、ボルボ、フィアット、アルファロメオ、ジープなど)。東京モーターショーだけが魅力を失ったのではなく“自動車の展示会”というモーターショーに限界が来ているのではないだろうか。 CESやSXSWが新しい自動車発表の場になっているその代わりに、ラスベガスで開催されるデジタル家電ショー「CES」はクルマとも連携して新しいビジョンや新技術を提案している。気がつくと、大手自動車メーカーがCESの主役になってしまった。CESにしても家電だけの展示会では持たなかったのは言うまでもない。 しかし、コネクト・システムが普及すると今度はCESまで古くなってしまいそうだ。次から次へとイノベーションが生まれる世界は、変化が少ない自動車から見ると、別世界の出来事のように思える。ポストCESとして注目されるのはテキサス州オースティンで毎年3月に行なわれる「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」だ。(南南西というのは、ヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ』をモジッた言葉)。このイベントはアメリカで人気の映画・音楽・マルチメディアの祭典なのだが、マツダがスポンサーになったり、メルセデスの会長が訪問したりと、最近は自動車メーカーとのコラボも始まった。 自動運転で走りながらコネクトするモビリティはどんな価値があるのだろうか。自宅で楽しんでいたことがクルマでも可能となる。これは自動運転の新しい価値の一つだろう。 クルマの世界では古いクルマとのコラボがかえって新しいという現象も起きている。クラシックカー好きでなくても、昔のクルマのデザインはどこか奇妙奇天烈で新鮮なのだ。カリフォルニアの「コンクール・デレガンス」、英国の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」などは世界から注目されるクラシック・イベントなのでメディアも注目している。 CESやSXSW、コンクール・デレガンスやグッドウッド、あるいは高級家具のショーとして知られる「ミラノサローネ」のようなイベントとコラボするほうが、個性的なブランドを持つ自動車メーカーにとってはメリットが大きい時代になってきたとも言える。特に自動車工業会主宰で自動車メーカー目線になりやすい東京モーターショーとフランクフルトショーは曲がり角に来ていることに気が付かないといけない。 2019年の東京MSは青山通りを会場にすべしかつては最先端テクノロジーの集積だった自動車産業だったが、イノベーションは他の業界で起きている。「IT・AI・コネクト・シェア」というキーワードが時代の空気なのである。 ところで、2019年の東京モーターショーはピンチとチャンスが巡ってくる。というのは、オリンピックの影響でビッグサイトが半分しか使えない。ほかの会場を探す必要があるのだ。 そこで提案したいのは、東京の青山通りをショー会場にするアイディアだ。ホンダがある青山一丁目から表参道をモータウンにする。オリンピックの会場がプレオープンすれば、そこを使うのもいいだろう。あるいは横浜の赤レンガを第二会場とすることも可能。お台場からは船で移動できるからだ。 今、世界の大都市は大気汚染で悩んでいる。だが、日本は厳しい排ガス規制を実施してきたから、東京の空気は悪くない。高速道路と公共交通が整備される首都圏のモビリティの快適さは、世界でも屈指の環境都市として誇れるのではないだろうか。きっとインバウンドの人たちは、日本の自動車産業の環境への取り組みに驚くはずだ。 |
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